君を思って(想って)

 この三連休は台風18号が日本旅行を楽しんだようです。皆様お住まいの地域は大丈夫だったでしょうか。
 こちらはこれといった被害はなかったようですが、当方、大変楽しみにしていた旅行がお流れになりました……金平糖屋さん行きたかったのにぃ……!!
 毎年のことながらとはいえ、台風シーズンは本当に厄介です。どうかもう大きな自然災害がありませんように。

 そして遅ればせながら、ようやく今月号の暴君を読むことができました……!
 ネタバレにならないように一言だけ。一言だけ感想を言わせてください。
 
 森永君、過去最高にキモいwwwwwwwwww

 以上です( /ω)


 さて、今回のお話は、久しぶりに「あーん」をやってもらいました。(過去にこんなのを「あーん」してもらいました→アイスソラマメ&枇杷お粥)そろそろ秋めいてきたからか、思いつくお話の全てが食べ物絡みです……。
 原点に帰ってほっこり話です。少しでも楽しんでいただけますように。

 
 ではでは、よろしくお願いいたします。







「はい、お兄さん。これで間違いないかい?」

「あ、ハイ、この号で間違いないです。よかったぁ、まだ残っていて。うっかり買い逃しちゃって」

「あはは、大丈夫だよ。結構この手の古い号は残っているものなんだ。なんだね、みつりん、とやらで自宅宛に取り寄せることもできるのに、わざわざこんな小さな本屋に注文してもらえるなんてありがとうねぇ」

「(Amazonのことかな……)いえいえ、とんでもない。確かに配達してもらえるのは便利ですけど、働いているとどうしても家に不在がちなので……せっかくご近所に本屋さんがあるんだし、自分としてはこちらにお願いする方が断然助かります。それに新刊もチェックできますしね」

「おやおや、ありがたいことを言ってくれる。お兄さんみたいなお客さんがいてくれると助かるよ」

「はは、お礼を言わなきゃならないのはこっちの方ですよ。いつもありがとうございます」

「(おーおーこれが向かいの婆さんが言ってたいけめんすまいるか。これは確かに惚れ惚れするわい)ところで、その雑誌は自分用に?」

「あ、ハイ。やっぱり男が料理雑誌を買うのは珍しいですよねー……」

「まぁ珍しいっちゃあ珍しいけど、ちゃんと自炊してるってことだろう?偉いよ」

「いやいや、自炊といっても簡単なものしか作れませんから」

「それでも偉いよ。ウチの孫娘がこの辺で一人暮らしをしているんだけどね、あの子なんて唯一作れる料理がカップラーメンっていうんだよ……まったく年頃の女の子が……(以下略)」

「(あぁ、たまに店番しているあのコか)ま、まぁ、人には向き不向きがありますから……」

「だとしても女の子なのに……いつも一緒に来てくれるあの髪の長いお兄さんは?彼も料理をするのかい?」

「えっと、彼もそんなには……(ゆで卵すら作れるか怪しいとは言えない)」

「まぁ確かに家庭的な雰囲気はないもんねぇ彼。しかし逆にああいう男が台所に立っていたら絵になりそうな気もするが」

「あはは(絵にはなるけど台所が大惨事になります)」

「あ、もしかして料理はしないけど食材には興味があるタイプかね?」

「え?」

「いやね、先日彼が一人で来てくれとき、熱心に毒キノコ図鑑を読んでいたんだよ。ホラ、もうすぐキノコ狩りのシーズンでしょ?ウチでも関連書籍をでぃすぷれいをしたら?って孫娘がいうものだからね、何冊か並べていたんだよ」

「あぁ、あの店頭の。――すみません、迷惑だったんじゃないですか?熱心に立ち読みだなんて(先輩にどストライクな一冊すぎる……)」

「いやいや、それはいいの!彼が読んでいたのは随分難しい本だからね、箔がつくかと思って並べていただけだから。……ほら、これだよ」

「うわぁこれはかなり専門的な……(高っ!!)」

「これに興味を持つとはなかなか専門的な知識をお持ちのようだ。もしかして仕事が医療系なのかね」

「いえいえ、そういうわけでは(完全に趣味です)」

「何だ、違うのかい(メスとか似合いそうなんだがね)」

「あ、こういうのも並べてるんですね……毒キノコ殺人事件……」

「ああ、孫娘がね、キノコ繋がりでいいんじゃないかって」

「はは……(キノコ狩りコーナーにこれはダメなんじゃ)」

「海外の作家さんなんだけど、あっちじゃ割と評判のいい一冊なんだよ。私には難しすぎて読めなかったがね(あ、そういえば、)」

「そうなんですか。――じゃあせっかくだから読んでみようかな。これもお願いします」

「おっ、そうかい、ありがとうね。ブックカバーをおかけしますか?」

「いや、結構……あ、やっぱりお願いします」

「承知しました(あの長髪のお兄さんもこの本に興味を持っていたんだよなァ)ねぇ、お兄さん、」

「はい?」

「……いえ、またいらしてくださいね(私が言わなくても多分、このお兄さんなら)」

「ええ、もちろん。ありがとうございました」



「おーどうした、今日もこっちで夕飯食べていくのかい?……お前も女の子なんだからそろそろ料理の一つでも覚えたら……いやまぁじいちゃんたちもお前の顔を見れて嬉しいけれど、うん。そうそう、お前がでぃすぷれいしてた毒キノコの推理小説が出たぞ。……どんな人が買っていったかって?お前も見た事あると思うが、背が高くて可愛らしい顔した――なんだい、急に大声をあげるもんじゃないよ!そう、その彼だよ。髪の長い男性とよく来てくれる。え?髪の長い彼?今日は来ていなかったけど、先日来てくれて――何がじいちゃんズルいだ!じいちゃんはこれが仕事なんだからズルいも何もないだろ!で、買ってくれたのは黒髪の彼だけど、じいちゃんの読みだと、あの小説は多分長髪の彼に渡すんじゃないかな。黒髪の彼、いつもならブックカバーは必要ないっていうのにあの本にはかけていたし。……そうさな、本の贈り物なんざセンスが問われるわな。けど、彼らはそこんところ熟知してそうな雰囲気があるんだよ。普段からそういう、何ていうんだ、例えが思い浮かばないが、いわば夫婦みたいな……何だお前、泣いているのか?え、何が尊いんだ?変な事言ってないでさっさとこっちにおいで。ご飯にするよ」







 アパートの扉を開けると、三和土には先輩のスニーカーが並べられていた。帰りは俺の方が早いと思っていたのに先輩の方が早かったみたいだ。
「ただいまです」
「おう、おかえり」
 どうってことのないいつもの挨拶だけど、交わされるたびに毎回ふにゃりとニヤけてしまう。この細やかなやりとりが幸せすぎて、一緒に暮らし始めて何年も経つのに未だ慣れることがない。
「早かったですね。松田さん、お元気でしたか?」
「おう、元気だったぞ。ていうかお前、先週会ってるだろうが」
 松田家にお呼ばれしたのはちょうど一週間前。先輩が出張中だったため、一人でお邪魔して美味しい夕飯をご馳走になった。正直、先輩よりも松田家にお邪魔している回数は多いと思う。松田さんも何かあるときは携帯不携帯の先輩よりも俺に連絡することが常なので、われながら本当の身内のような扱いを受けていると思う。
 愛しい先輩はお気に入りのソファーの定位置で学術誌を読んでいた。隣に座ってちらりと目をやると、その雑誌のナンバーは先月のものだった。確か今月号の発売日は明日だったか。
 これはちょうどいいタイミングかもと先ほど商店街で手に入れたモノをお披露目しようとした時、ふとカウンターに置かれた白い袋が目に入った。
「あれ、あの袋は何ですか?」
「あー、松田さんから貰ってきた」
 何だろう、結構パンパンに丸い何かが詰まっている。
 近付いて中を覗いてみると、
「わぁ!こんなにいっぱい!」
「ご近所さんの庭で生ったのを貰ったらしい。ご近所さんも俺たちの分もってことで大量に持ってきたんだと。小振りだしまだ甘みは浅いらしいが、まぁほっときゃ追熟するからな。リンゴあったっけ」
 残念ながらリンゴはない。なんせ男二人暮らしだ、ビールは常備していても果物の買い置きはない。明日買ってきたいけど、確か明日は週明けから夕方に会議があったような。
「先輩、もし明日俺が遅くなりそうだったら八百屋でリンゴ買ってきてもらえませんか?」
「おーわかった。そんときゃ米も炊いとく」
「うん、お願いしますね」
 ゆで卵はアヤシイが、先輩だって炊飯器のスイッチぐらいは押せるのだ。
 袋の中身を一つ一つ検分してみれば、甘みは浅いと聞いている割にはいくつか今すぐ食べられそうに色付いているものもある。
「晩ご飯の後にいくつか頂きましょうか。美味しそうな色をしているのがありますよ」
「おー、任せた」
 はい、任せられました。
 任せられたからには、絶対に美味しいのを選びたい。
 今日の夕飯は鶏肉の照り焼き丼にほうれん草の白和え、汁物は海苔のお吸い物。メインが濃い目の味付けな分、甘みがまだ浅いというならちょうどいいデザートになるだろう。
 そんなことを頭で考えながら、小振りで良いので美味しそうに色付いている秋の果実――柿を、山吹色の小山の中から丁寧に選り分けた。
 





 どれだけ薄く皮を剥いたところで、元が掌にすっぽりおさまるサイズなのだからその大きさは高が知れている。中の種を除くために四分割すれば、丁度いい一口サイズになった。
「はい、どーぞ」
 ガラスの器に盛ってテーブルの上に載せれば、食後すぐにソファーに寝転がっていた先輩が身体を起こした。夕飯前に風呂に入ってもらったので、その長くてキレイな髪は一括りにされずにおろされている。
「もう、そんな食べてすぐごろ寝してたら牛になりますよ」
「馬鹿め、ちゃんと右側を下にして寝てたわ」
 なんとも可愛くない反論を述べた口元に、フォークに刺さっていた一片が放り込まれる。シャク、と新鮮な音が聞こえた。
「……ん、美味い」
「わ、本当ですか?追熟させるのが楽しみになりますね」
 では俺もと口に入れてみれば、確かに松田さんの言っていたとおりまだ甘みは浅いものの、これはこれで十分美味しい秋の味だ。我ながら食べごろの実を選んだなと喜んでいる目の端に、再び先輩がソファーにごろ寝する姿が入る。
「あれ、もういいんですか?」
「いや、まだ食べるぞ」
 そう言って先ほどの雑誌に手を伸ばしたので、漸く俺は自分が先輩にお土産を買ってきたことを思い出した。袋いっぱいの柿にすっかり忘れていた。
「先輩先輩、俺、お土産買ってきたんです」
「は?お前、今日は髪切りに行ったんじゃないのかよ」
 訝しげに雑誌の上部から切れ長の目を覗かせた先輩に、へらりと微笑んでそれを肯定する。
「もちろん行ってきましたよ?短くなってるでしょ?」
「全くわからん」
 もう。
「その後、商店街で先輩が興味持ちそうなの見つけてきたんです。ちょっと待っててくださいね」
 急いで自室にかえり、本屋さんの紙袋ごと抱えてリビングに戻った。先輩の口元がもごもごしているところをみると、また一欠片口に放り込んだのだろう。甘かったらいいんだけど、と思う一方で、無防備に柿を頬張る様子が可愛らしくて仕方ない。しかしこれは口に出したらダメなヤツなので必死に自制する。
「はい、これお土産です」
「何だ小説か?――ってこれ、商店街の本屋にあったヤツじゃねぇか」
 思った通り、先輩はこの小説に見覚えがあるようだ。早速奥付を確かめて(このあたりは最早習性だろう)ページを捲っている。
 多分興味を持っただろうな、と思ったのだ。毒キノコ図鑑の横に毒キノコ殺人事件だなんて、先輩の毒への好奇心を刺激する配置以外何モノでもない。本屋さんの孫娘、わかっていてディスプレイしたんじゃないかとさえ思ってしまう。
「俺から読んでいいのか?」
「もちろん。俺はこっち買ってきたんで」
 そういってわざわざ取り寄せた料理雑誌をみせると、先輩は納得したような顔をした。
「先輩も読みます?」
「んーあとで美味そうなヤツに付箋貼っとく」
 先輩が占領しているソファーを背凭れにして座り込むと、先輩の肩口あたりに頭を落ち着かせる形になった。鼻先に香るのは風呂上がりの先輩の甘い匂い。同じシャンプーを使っているはずなのに、どうしてこの人はこんなに甘い香りがするのだろう。今すぐ振り返って覆いかぶさりたいけれど、この心地よい空間を壊したくはない。
 そんなふうにこっちが悶々としていると、背後の先輩から声をかけられた。
「森永」
「はい?」
「あ」
「?」
 言葉が続かないのを不審に思って後ろを見やると、先輩は顔の前に持ってきた文庫本から視線を離さず、口をぱかりと開けていた。


 え、なに可愛いことしてくれてるのこの人は。


 すぐにその意図を汲み、フォークを使わずに指先で柿を摘む。そして運ぶ先は雛鳥のようにして待つあの人の口元へ。そっと口内に落とし込めば、柔らかい唇に指先が触れそうになってドキッとした。
「……甘いですか?」
「ん」
 そのあと自分の口に運んだ一片は甘いとは言えなかったけど、何だろう、柿じゃなくて何かが甘い。それは背後から香る先輩の匂いか、それともこの場の空気なのか。


 こういうときに、ふと幸せを感じる。


「森永」
「はい」
「もう一個」
「わかりました。……もうちょい、口開けて」
「あ」
「はい、どーぞ。……あ、ちょうど柿特集やってる。柿のなますに柿とモッツァレラチーズのサラダ……春菊と柿の白和え、って白和えは今日やっちゃったなぁ」
「俺は連日でも白和え食えるけど」
「そうですか?じゃあ近いうちにしてみましょうか。……あ、干し柿って白ワインと相性がいいんですって」
「作れ」
「干し柿を?寒くならなきゃ無理ですよ」
「じゃあ寒くなったら」
「はいはい。俺も作ったことないから松田さんに教わらなきゃ。多分シーズンになったら渋柿が八百屋さんに並ぶだろうから――」
「森永」
「はぁい」
「あ」
「はい、どーぞ……甘い?」
「ん」
「干し柿はもっと甘いですよ」
「だろーな」
「その本、面白い?」
「お前が話しかけるから全然内容が頭に入らん」
「えへへ。もう一個、食べます?」
「ん」
「はい、口開けて――ね、甘い?」
「ん」
「そっか。――俺も甘くて、幸せです」

 思わず嬉しそうにそう呟くと、先輩が口元をもごもごさせながら視線だけこちらに向けてくれた。その目を見つめてふにゃりと(先輩曰く「だらしない」顔で)微笑めば、即座に先輩の眉間にシワが寄る。でもこの甘い雰囲気は壊れることもなくここにあるので。



「せーんぱい、」
「んだよ」
「冬になったら一緒に干し柿作りましょうね」
「おー」








 部屋に聞こえる音は互いのページを捲る音と時たま柿を強請る声。
 
 幸せな甘い空気の中、秋の夜が更けていく。















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