秋の日の思い出

 あっという間に9月も残り僅かですね。
 東北地方では既に紅葉が見頃となっている地域もあるようですが、ここQ州では未だ30度近くまで気温が上がる日がございまして……。
 それでも真夏のような暑さを感じないのは、間違いなく季節が移ろっている証拠なのでしょね(・∀・)

  以下、前回の記事に鍵付きでコメントを下さった方へのお返事になります。

 はい、嫁(森)姑(松)の関係性は依然良好な模様です!おそらく姑さんは実の甥っ子より頼りにしてるんじゃないですかね(笑)こんなことが本屋の孫娘に知られでもしたら、きっと彼女は咽び泣くのではないでしょうか……。ぜひとも私もバイトに加わり、一緒に萌え語りしたいですー*\(^o^)/*



 さて今回のお話は、情けないことに時期が少々ずれ込んでしまいました。季節モノをモットーにしているはずなのに、これはなんたる失態か。。。読み返す間も無くアップしましたので、誤字脱字はもちろん、多少意味の繋がらなない箇所もあるかと思います。その際はぜひとも脳内補正をかけていただければ幸いですm(_ _)mとにかく、9月が終わるまでにこのお話をあげたかったもので(>_<)


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 “寒さ暑さも彼岸まで”とはよくいったもので、ここのところ日中はともかく朝晩が一段と涼しくなってきた。そろそろ寝具を秋仕様に替えなければと森永が言っていたのは昨日のことだったか。マメなあの男のことだ、週末の天気が良ければ一気に衣替えを進めるにちがいない。そうでなくとも、週末は出かける予定があるので天気が良いに越したことはないのだが。
 ふと窓の外に視線を向けると、生協から戻って来る三人の助手の姿が目に入った。美春と田所の同期コンビが前を歩き、半歩後ろを森永がついていく。といってもしょっちゅう前の二人が振り向いて話しかけるものだから、結局は三人並んで歩いているようなものだ。自分の前では躾のなっていない駄犬全開の森永も、こうやって後輩に接する姿をみればしっかりと先輩っぽく見える。いつでもあんな顔をしていろと強く言ってやりたい。

 そんな苦々しい視線に気付いたのか、駄犬がつとこちらを見上げてきた。

 だからそのだらしない顔をやめろと言ってんだよ馬鹿タレめ。





「ただいま戻りました〜」
「遅くなってすみません」
「はい、コーヒー。熱いので気をつけてくださいね」
 まだだらしない顔を見せている駄犬に一発、いや数発の制裁を加えていると、美春が何かプラスチックの容器を実験台に乗せたのが目に止まった。その中身は、普段は全くといっていいほど自分とは縁がないハズなのに、この時期と春先だけは我が家でよく目にしていたモノ。毎回巴とかなこが嬉しそうに頬張っていたっけ。
「……それって」
「あっ、生協に売ってたんでつい買ってきちゃいました。お彼岸ですもんね。巽さんもお一つどうぞ」
 そう言って美春はニッコリと微笑むが、どう見たって容器の中に納められているモノの数はここにいる人数分以上ある。しかも一つ一つが軽く子供の握りこぶし分ぐらいはあるじゃねーか。
「あー。申し訳ないが俺は甘いモノは……」
「まぁまぁ先輩、せっかくですし、一口ぐらい。残りは俺が引き受けますよ」
 いつの間に床から這い上がってきたのか、復活した駄犬がそう言ってへにゃりと笑う。今だけはそのだらしない顔がありがたく見えるものだ。
「美春さん、俺も甘いのはそこまで得意じゃ……」
「田所はダメ。私だってダイエット中なんだから」
 美春よ、じゃあ何故買ってくるんだ。
 そんな心の中の声が聞こえたのか(もしかしたら口に出していたかもしれない)、美春が照れたように笑いながら、その理由を口にした。
「まぁ探せば一年中売っているものですけど……なぜかこの時期になると無性に食べたくなるんですよね、おはぎって。ついでにおばあちゃん家を思い出すといいますか」
「あーわかるそれ。墓参りのあと、ばあちゃん家でおはぎを食べるまでが一連の流れというか。……いや、ぼたもちだっけ?」
「やーね田所、春のお彼岸に食べるのがぼたもちで、秋のお彼岸がおはぎなんじゃない。それぐらいジョーシキよジョーシキ。罰として二個食べなさい」
「えっ、無理だって!てかなんで五個入りにしたの!」
「美味しそうなものを見ていると、ついいっぱい食べたくなっちゃうのよねぇ」
「じゃあ美春さんが二個食べ、」
「ダイエット中だって言ってんでしょーが」
 きゃんきゃん言い合う二人を余所に、森永が一口サイズに切り分けたおはぎをプラスチックの蓋に乗せて差し出してきた。食べやすいように楊枝が斜めに突き刺してある。
「これぐらいなら大丈夫ですよね?どうぞ」
「あー……」
 後輩の気遣い(この場合の「後輩」とは美春のことを指す)を無駄にできないので、勧められるままにその粒あんの固まりを口の中に放り込んだ。甘く炊き上げた小豆はプチプチとした食感こそ楽しいが、やはりその味はどうしようもなく甘い。砂糖と小豆の味がする。いや、主に砂糖の味がする。ていうかもち米の部分はどこにいった。完全に餡子に負けてるじゃねぇか。
「うーん、やっぱり秋は粒あんが美味しいですよね。もちろんこしあんも美味しいんですけど、粒あんは収穫したての小豆じゃないと美味しく作れませんから」
 人が一口サイズのおはぎを飲み込むのに苦労している隣で、駄犬は見ているだけで胸焼けがしそうな量をがっつり頬張っている。本気でこいつの前世ってカブトムシなのではないだろうか。 
 盛大に片頬を引きつらせていると、早々に一個平らげた美春が「そういえば、」と呟いた。
「お彼岸といえば彼岸花も思い出さない?田舎の祖母の家の近くに、真っ赤な彼岸花が両脇を埋め尽くす畦道があってさ。ちょっとした観光スポットになっているのよね」
「へぇー。俺んとこの地元だと、彼岸花は墓地でよく見かけるかな」
 得意じゃないと言っていた割には田所もペロリと一個を完食したようだ。二個目のおはぎを手にしながら、何かを思い出すかのように首を傾げている。
「咲いてる場所といいびっくりするほど鮮やかな色といい、彼岸花ってなんか不吉な花って印象が強いんだよなぁ……しかも確か毒があるんじゃなかったっけ」
「え、そうなの!?怖ッ!」
 馬鹿か。
 本気でビクつく美春の様子に、思わず口を挟んでしまった。
「何言ってんだ、球根何百個も摂取しなきゃ人間の致死量に至らねぇよ。ネズミやモグラ相手だったら一個で千匹以上が殺られるがな」
「――ああ、だから川沿いや墓地に植えられていることが多いんですね」
 まるで台本のある芝居のように、隣から絶妙なタイミングで合いの手が入る。この男のこういう察しがいいところは買っている。成る程、と声を上げている助手二人はもうちょい頑張れ。 
「となると、花言葉とかすごいことになっていそうですね……えーっと、赤の彼岸花の花言葉は、“情熱”、“悲しい思い出”、“諦め”……うん、お墓に相応しい花言葉かも」
 美春が手元のスマホを覗き込みながらそう呟くが、彼岸花の名誉のためにも補足を入れておくことにする。
「それだけじゃねーよ。“再会”とか“また会う日を楽しみに”って意味もあるはずだぞ」
 あ、ホントだ、と声を上げているところからすると、おそらくサイトの下方にでも載っていたのだろう。すると田所がどこか感心したような顔つきで
「巽さんって花言葉も詳しいんですね。さすが博識だなぁ」
「ん、えと、いや、田所君、先輩の場合は、」
「あ?んなもん毒草辞典に載ってたから覚えてただけだっつーの」
 
 おいおい何だお前らその顔は。頭上を仰ぐ森永も大概失礼だが、美春と田所はいかにも“引きました”って顔してんじゃねーよ。





 その後も三人は何やかんやとくっちゃべっていたが、講義の終了を告げる鐘が聞こえると急にバタバタしだした。それもそのはず、次のコマは美春が必修、田所はTAが入っていたはずだ。慌ただしく飛び出していくまでおよそ二分、もっと余裕をもって行動しろと言ってやりたい。事実、鐘の音が聞こえるのが数秒でも遅かったら、間違いなく自分の怒声が響き渡っていたことだろう。
「あー、悪いことしちゃったな。ギリギリまで引き留めちゃって」
「ったく、くだらないコトくっちゃべってんじゃねーよ」
「へへ。ついつい、盛り上がっちゃって」
 いやいやその緩みきった顔は絶対悪いと思っていいないだろ。美春たちを怒鳴りつけるよりも、あいつらの間の前でコイツを叩きのめした方が効果があるかもしれない。
「あ、何か悪いこと考えてますね?」
 いや、効率的な作業の進め方について考察していただけだが。
「それにしても俺、彼岸花に毒があるなんて知りませんでした」
「それはお前が無知なんだよ。“彼岸花を家に持って帰ると火事になる”とか“摘むと手が腐る”とか聞いたことないか?」
「え、それって迷信ですよね――って、あぁ、そういうことか」
 やっぱりこういうところは察しのいい男である。
「そう。毒があるのは球根部分とはいえ、摘み取った茎からでる水分を乳幼児なんかが口にするとマズイからな。敢えてそういう話を流して、子供が近付かないようにしたんだろうよ」
「せっかくネズミ避けで植えたものを荒らされても困りますしね。なるほど」
 
 そこでつと、古い記憶が蘇った。

 思わず黙り込んだことを不審に思ったのか、森永がこちらを覗き込んでくる気配がある。
「先輩?どうしました?」
「……ちょっと懐かしいことを思い出した」
 そう呟けば、先を促すことなく森永が黙ってこっちに視線を寄越してきた。相変わらず緩い顔だが、口元の角度が普段よりも幾分緩やかだ。角喋りたくなかったら喋らなくてもいいんですよ、とその無駄にデカい目が語っている。
「……昔、母さんの見舞いに三人で行ったとき、まだ小さかったかなこが土手に咲いていた彼岸花を持っていくって言いだしてな。幼児に茎が手折れるわけもなく、それはそれはぐっちゃぐちゃになって」
「えっ」
「手を洗わせたくとも都合よく水場があるわけでもないし、こりゃもう川で洗わせるしかねぇぞってことでかなこ抱えて土手を駆け下りたんだよ。そしたら巴が一生懸命後を追ってきて、草に足を取られてそりゃもう派手にすっ転んで。そのままゴロゴロ転がって、あと少しで川に落ちるところだった」
 あのときの光景は未だハッキリと思い浮かべることができる。転がった痛みより驚きの方が勝ったのか真ん丸な瞳を目いっぱいに見開いた巴と、兄が転がっていく様子が衝撃的だったせいでギャン泣きするかなこ、土まみれの弟と泣き叫ぶ妹を抱えて途方にくれる自分。結構な距離を転がったのにも関わらず、巴が擦り傷程度の怪我しかなかったのが唯一の救いだった。
 その後、泣きつかれて眠ってしまったかなこと所々汚れた巴を連れて母さんの元へ行けば、母さんったら涙を流して大笑いしていたっけ。もちろん無事だとわかっていたからこその爆笑だったと思うが、母さんの笑顔が大好きだった自分にとっては、大変だったことが一瞬で吹き飛ぶぐらいに嬉しい母さんの姿だった。母さんの笑顔が好きなのは巴も一緒だったので、二人して身振り手振りで事の詳細を説明すれば、途中検温のために入ってきた看護師さんを引き込むほどの笑顔の輪ができて。
「途中かなこが起き出して花を持ってきたかったと愚図りだしたけど、母さんがいつか一緒に見に行くから大丈夫って約束してさ。そしたらすぐに泣き止んだんだよ。アイツは今も昔も単純なんだよなぁ」

 ま、結局それは叶わない約束だったけれど。

 最後の台詞を口に出さずに飲み込むと、室内には沈黙が降りた。
 ゆるりと空気が動いた気配がしたと思えば、同居人が身体ごとこちらを向いたらしい。
「やっぱり先輩は今も昔も頼れるお兄ちゃんなんですね」
 は?と訝しげに目の前の男を睨んでやれば、そこにあったのは最高にだらしない顔だった。
「――お母さん、きっとすごく嬉しかったと思いますよ」
「何でそう思うんだよ」
「うーん、それは俺が今嬉しいから」
「全然意味がわかんねぇし」
 間違いなく今の自分はげんなりとした顔になっているはずだが、そんな顔を前にして、森永は何か大切なものが目の前にあるかのような眼差しを浮かべていた。
 その表情は、先程の思い出話で語られなかった部分、母さんがこっそりと「やっぱり宗君は頼れるお兄ちゃんね。本当に、いつも、ありがとう」と耳打ちしてきたときの表情とすごくそっくりで。 
 妙に恥ずかしいようなむず痒いような、高揚した何かのおかげでで叫びだしたくなるような。
 あの時のことを思い出すたびに蘇ってくる感情を、どうしてこの男に対しても抱いてしまうのか。
 その理由はわからない。

 いや、わからない、ということにしておこう。







「週末はおはぎ作って行きましょうか」
「俺が甘いモノは苦手だって知ってるだろーが」
「大丈夫、甘さ控えめにしますから」
「……母さんは甘いのが好きだったけど」
「じゃあ二種類作りましょう。先輩でも食べられる甘さのおはぎと、甘いモノ好きなお母さんが気に入ってくれそうなおはぎと」
「面倒じゃねぇ?」
「こういうのは面倒っていいませんよ」
「あー……なんか手伝う、わ」
「うん、ありがとうございます。お母さんが笑顔になってくれるようなおはぎ、一緒に作りましょうね」
















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