イイ笑顔、とは。

 今年は秋台風が多いですねー(*_*)今朝は風の音で目が覚めました。
 私の住む地域では大きな被害こそなかったものの、交通機関や色んなイベントに影響があったようです。
 今夜未明に温帯低気圧に変わるようですが、引き続き天候にはご注意ください。。。

 以下、前回の記事に鍵付きでコメントを下さった方へのお返事になります。(10月30日6:40修正)

  申し訳ございません!!!最初こちらの記事をあげた際にお返事のコメントを入れ忘れていました!!!
  せっかく嬉しいコメントをいただいたのに何たる失礼を……(T_T)大変、失礼いたしました。
  兄さんのセリフにときめいて下さってありがとうございます!私もあんなこと言われたら倒れると思います。笑
  おそらく、森永君も平常時にあんなコトを言われていたら大変なことになっていたことでしょう(森永君が大変っていうより兄さんが大変だという……ごにょごにょ)



 さて今回のお話は、個人的に最速で書き上げたお話です。
 ハロウィンが近いですが、全く関係ないモノになります。
 今年はハロウィンのお話が用意できなかったなぁ……(´Д` )


 ではでは、よろしくお願いいたします。







「ねぇねぇ、さっき購買から帰ってくるときに見ちゃったんだけどさぁ」
「えっ、何なに?」
「そういえば何かビミョーな顔してたねぇ」


 足音からして騒がしいのが来たなと思ったが、どうやら女子が三人程やってきたようだ。まさか反対側の生け込みの影に人がいるだなんて思わないだろうから、気付かれないように気配を潜める。別に気が付かれたって構いはしないが、見つかった時の反応を考えると非常に面倒くさい。どうせ悲鳴を上げるか訳のわからない謝罪を口にして逃げ出すのがオチだとしても、せっかくの休憩時間に面倒事に関わりあいたくない。

「研究棟を出たところで、森永先輩と平石ゼミの女子が二人きりで喋ってたんだよね」

 聞きなれた名前が聞こえ、思わず片耳が反応する。

「平石ゼミの女子……ってもしかしてあの?」
「チョー男癖悪いって有名な?」
「そうそう!あのコ、ずっと前から森永先輩のこと狙ってるって公言してたじゃん。まだ諦めてないのかなぁってびっくりしちゃって」
「え、森永先輩にはラブラブな彼女がいるってわかったのに?」
「あー九州旅行のね」
「有名な話なんだからあのコが知らないはずないと思うんだけどねぇ」
「じゃあ単に世間話してたとか?」
「世間話程度で森永先輩と二人きりの時間を持てるなら100個世間話を用意するわ」
「なら私は1000個用意する」
「二人とも落ち着いて」
「ていうかあの雰囲気は世間話じゃなかったと思うんだぁ。ホラ、あのコって背が低いでしょ?私が見かけたときもガッツリ上目遣いで頬をピンクに染めながら森永先輩を見上げててさー」
「まぁ森永先輩が相手なら大抵の女子は見上げる形になるよね、うん」
「あのコって顔も可愛い系だしロングのストレートも毛先までツヤツヤしてるし、見た目で騙される男っていっぱいいると思う」
「でも森永先輩は大丈夫だと思いたいッ」
「うん。だって噂だと森永先輩の彼女さんって相当レベルが高いって、」
「それが森永先輩ったらまんざらでもないような顔をしてたのよー!」
「「えぇぇえええーーー!!!」」
「顔なの?!所詮顔なの?!」
「いや、ちょ、絶対あんたの見間違いだって!森永先輩に限ってそんなっ!」
「私だって見間違いだと思いたいし!でも、あんなにイイ笑顔の森永先輩を見たの初めてだった……!」
「いやぁああ!」
「そんな笑顔、私だって見たいぃぃ!」

 突如カオスな雰囲気となった背後に慄きつつも、心の中では盛大なため息を零す。
 アイツが女と話してイイ笑顔してたって?んなわけねーだろ、アイツはホモだぞ?
 そういってやりたいのは山々だが、さすがにそこまで教えてやるほど背後の女子たちに義理も情けもない。なので、更に盛り上がっている後ろに気付かれないよう立ち上がり、休憩を切り上げて実験室に戻ることにした。美春たちはまだ戻ってきていないかもしれないが、一人でもできる作業は山ほどあるのだ。
 件の森永は午後イチで教授に呼ばれ、この時間まで実験室を不在にしていた。なのでその平石ゼミの学生と立ち話をしていたというのは全く与り知らないところであるが、別にヤツがどこで何をしていようが全くこっちに関係ない。教授の用事が済んだならさっさと戻ってこいとは思うが、誰とナニをしていようが自分に興味があるはずもなく。寧ろ暫く顔を合わせなくていいとすら思っているぐらいなのに。事実、今朝は家から出る時間を別にしたし、午前中は最小限の会話(主に実験の指示)しかしていない。自分たちの間に流れる空気に美春たちがビクついていたのはわかったが、だからといって態度を変えてやるかこのヤロウ。


 アイツが全部悪いのだ。人が気持ち良く転寝しているときにキスしようとするなんて。


 直前で目が覚めたので足元のラグに沈めてやったが、それぐらいでこっちの怒りが収まるはずがない。その後耳と尻尾を盛大に下げて謝罪しまくってきたところで、そんなうっとおしいことをするなら最初から仕掛けてくんじゃねぇよと思う。本当に馬鹿なのだ森永という男は。

 なので、この雰囲気の悪さは全面的に駄犬のせいなのである。どんなに美春たちが目で訴えてこようとも、それを慮る気はさらさらない。


 通りすがりに見つけたゴミ箱に、手にしていた空の紙コップを捨てる。コーヒーで一服したはずなのに、どうも上手く休めなかった気がするのは何故だろう。喫煙所に行ってもいいが、そうすると今度は時間が足りない。ここから一番近い喫煙所でも数分歩かなくてはならないし、往復の時間と一本を灰にする時間を合わせれば、おとなしく上に戻るのが賢明か。
 今度は口に出してため息を吐く。
「はぁ……」
 何でこんなにモヤモヤした気分になるんだか。
 間違いなく原因の一端を担っている馬鹿を思い浮かべ、自然と自分の表情が苦々しくなるのがわかった。すれ違う学生があからさまに目を背けていくことからして、今の自分は相当アレな表情なのだろう。まぁ別にどうってことねぇけど。

 実験室の引き戸を開けると、予想に反して助手たちは全員顔を揃えていた。
「お帰りなさい」
 真っ先に声をかけてきた駄犬の顔は普段通り穏やかなものの、どこか寂しそうな色が見え隠れしている。さながらずっと「待て」をさせられているようなその顔に、思わず予想外の言葉が口を衝きそうになった。

(どんだけ“イイ笑顔”を晒してきたんだお前は)

 すかさず口元を真一文字に結ぶことでなんとか耐えたが、こっちの表情に敏い駄犬は何か感づいたようだ。どうしたの?と心配そうに小首を傾げてくるのが腹ただしい。とりあえず睨みつけ(小さく上がった悲鳴はきっちり二人分聞こえた)、中断していた作業に戻るべく中に足を踏み入れた。
 
 こんなことで自分がイライラしているのも変な話だろう。



 *



『森永さんってスタイル抜群』

 まぁ何で一日中実験室に引きこもっているくせにそのガタイなんだとは思うよな。

『あんなにイケメンなのに彼女が発覚するまで浮いた噂が一つもなかった=彼女一途』

 その実態はホモかつ変態なんだっつーの。

『成績もすごく優秀で内定先は一流企業』

 だがしかし学習能力はねぇぞ。毎回やるなって言ってんのに同じことを繰り返す。
 今日この雰囲気の原因だって馬鹿が馬鹿なことをするから。



「あの……先輩、」
 そんなスタイル抜群のイケメン野郎(但し学習能力ナシ)を観察していると、観察対象が困ったようにこちらを振り返ってきた。容のいい眉が見事に八の字を描いている。
「もうちょっと時間かかるんで、ソファーに座ってて下さい」
「別に俺がどこにいてもいいだろうが」
「……そんなに見られると手元が狂いそう……」
 と包丁片手に世にもナサケナイ顔で訴えてくるので、カウンターで突いていた頬杖を外し、キッチンの内側に乗り込むことにした。真横に立って手元を覗き込むと、まな板には南瓜がのせられている。なるほど、これは切るのに力が入りそうな食材だ。手元が狂ったらたまらんだろうな。
「ね、先輩、危ないから」
「お前がしっかり包丁握っておけばいいんだろうが」
 そうジロリと睨み付けると、森永は面白いほどオロオロと狼狽えた。いつの間にか握られていた包丁はまな板の奥に押しやられている。
「も、もちろんそうなんですけど!先輩に見つめられると、」
「あぁ?」
「……照れちゃうんですよぉ……!」
 わっ!と両手で顔を隠しているが、横髪から覗く耳がほんのり赤い。今朝からろくな会話をせずにこんな行動をとったものだから、どうやらコイツは軽くパニックに陥っているらしい。しかし照れるって何だ、照れるって。
「意味わからん」
「好きな人に見つめられてるんだから当然でしょうよ!」
 はぁ?と思わず聞き返せば、指の隙間からジロリと睨まれる。そんな赤い顔で睨まれたところで何も怖くないのだが。よくまぁクルクルと表情が変わるヤツだ。
 しかし、実験室で二人だけの時ならともかく、基本的に森永は外ではこういう顔を見せない。こんな森永の顔は自分以外知らないだろうなぁとぼんやり思う。

 急に、例の女子にどんな“イイ笑顔”を見せていたのか気になってきた。

「お前、今日平石ゼミの女子と話ししてたって?」
「あれ、何で先輩が知ってるの?」
 きょとんとした顔で聞き返されるが、何とも答えようがない。
 思わず黙り込んでしまうと、森永がふにゃりと微笑んだ。
「全く見覚えのないコだったんですけど、急に呼び止められちゃって。どうやら俺の内定先が第一志望の企業らしくて、就活ってどうされてたんですかーって質問されたんです」
「へぇ」
 そういう話題で“イイ笑顔”ねぇ、と思えば、こっちの考えがわかった筈はないのだが、突如森永が満面の笑みを浮かべてきた。 
「そのコがね、先輩のことスゴいって褒めてたんです」
 は?
 思わぬ話の展開に瞳を瞬かせると、森永が更に笑み崩れた。
「そのコもキレイなロングだったんですけど、先輩を見かけるたびに髪のキレイさに目を奪われるって言ってました。やっぱり女の子ですねー、そういうところに目が行くなんて」
 いや、そのコお前のファンらしいから、いつも一緒にいるこっちに目が行くってだけだろ。
 そう言ってやりたいが、あまりにも嬉しそうな顔で森永が言葉を続けるものだから口が出せない。
「どういう手入れをしたらあんなにキレイなロングをキープできるのかな、って。もちろん先輩がキレイなのは髪だけじゃないけど、先輩が褒められるのが何だか嬉しくって」
「……」
 間違いなく、今の自分は呆れたような顔をしていると思う。しかしそんな表情にへこたれるコイツではない。キラキラな笑顔は続く。
「とりあえず、そのコの使っているヘアケア用品も聞いてきました」
「は?お前、そんなこと聞いて不審がられなかったのかよ」
「いや?だって俺の大好きな人もストレートのロングだから参考にしたいっていったら普通に教えてくれましたよ」
「!!!」

 まさかの回答に身体がピシリと音を立てた。

 ものスゴいスピードで顔中に血が集まるのを感じる。何か言ってやりたいけれど、想定外の事態に頭がうまく回らない。何だと?この馬鹿、何を言ったって?
 そんなこっちの様子をどう思ったのか、森永は自分にしか見せることのないだらしない笑顔を浮かべる。こんな顔で外を歩こうがものなら即通報されるレベルの。



 何だ、つまりどういうことだ。

 コイツがまんざらでもない顔をしていたのは、俺の話をしていたからなのか?

 “イイ笑顔”を見せたのは俺の髪が褒められたから?

 コイツの頭の中はどんだけ俺でいっぱいなんだよ。



「お前って本当に……」

 その言葉の続きは必死に飲み込む。
 
 自分は一体何を口走りそうになった?



 そんなこっちの動揺を知ってかしらずか、駄犬はだらしない顔から一転、心配そうな顔でこちらを覗き込んできた。
「もう、怒ってない……?」
「ッ、」
 口籠る自分を見つめる森永の顔はひたすら甘い。それはもうデロデロに。

 きっとこんな顔を見ることができるのは自分だけなのだと、強烈に思い知らされる。

「ご飯、もうちょっとですから。一緒に食べましょうね」
「……おう」
 そう応える声は掠れてしまったが、森永は嬉しそうに微笑んだ。
 あの女子が見たという“イイ笑顔”よりも、きっとこっちの方が“イイ笑顔”だと思う。
 まぁ比較しようと思ったところでそんなのは自分だけしか分からないことだが。
 外で披露する機会がないのだから致し方ない。
 自分の前でしか、見せないのだから。



「腹減った」
「うん、すぐ作りますね」






 だからまぁ、それでいいのだろう。


 つまりはこの馬鹿の笑顔を全種類見ることができるのは、世界にただ俺一人だけということだ。














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