はじめての文化祭。

 あっっっという間の11月です!時が経つのは早いですねぇ(*_*)
 今月号のがっすはもうご覧になりました?私は電子で読もうと思っているのでまだ読めていないのですが、先生のツイッターで拝見した一コマだけで既に盛り上がっております\(^o^)/あー早く読みたいッ!
 とりあえず、ツイッターの一コマをみて、「え、兄さんがスマホ?」と叫んでしまったことをここで告白しておきます。


 さて今回のお話は、本来であれば一週間前の文化の日に載せる予定だったお話になります。
 季節モノが大好きなくせに……タイミングを逃しました(>_<)
 そして、いつもより長く時間をかけてしまったせいか、大した山場がないにも関わらず相当に長いです。
 なので週末お時間があるときにでもお読みいただければ幸いでございます。

 これだけ長いにも関わらず回収しきれなかった箇所があるので、もしかしたら後日森永君目線のお話を書く……かも?


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 あぁ高校生になったんだなぁ、と思うタイミングは今まで何度もあった。

 初めてこっちに来た日の夜とか、今までとは違う制服に袖を通したときとか。
 そのたびにドキドキしたり少しだけ不安になったりもしたけれど、今日のワクワク感は今までのそれとは随分違う。何だろう、思いっきり叫びだしたくなるような、飛び跳ねたくなるような。
 うん、ちょっと興奮している。
 もう高校生なんだから、子供っぽい行動は控えなきゃと思っているのだけど。
「かなこのお家は誰か来るの?」
「うん、おばさんと兄さんたちが来てくれるハズだったんだけど、おばさんの方は風邪引いちゃったみたいで。だから兄さんたちだけ来てくれるみたい」
「え~、それは残念だねぇ。こんなかなこの可愛い姿、見せてあげられないなんて」
 そう言われ、チラリと自分の格好を見下ろす。パフスリーブのトップスの上には編み上げたビスチェ風のキャミ、あわせたスカートは今まで着たことのないフワフワした三段フリル。トップスもスカートも真っ黒だからまだ着られたものの、これがパステルカラーの組み合わせだったらさすがに躊躇ったかもしれない。可愛い格好は好きだけど、さすがにもう高校生だしね。そして初めて着たパニエのボリューム感たるや。一応、真っ白なショートエプロン(もちろんフリルたっぷりの)をしているものの、まったくもって実用的なファッションではないと思う。
 こんなお人形さんみたいな恰好、松田さんと森永さんなら可愛いと両手を打って喜んでくれそうだけど、兄さんがみたら盛大に眉を顰めるに違いないだろうなぁ。

「家族以外には誰も呼ばなかったの?」
「ううん、友達を呼んだよ。普段は県外にいるからなかなか会えないんだけど、ちょうどこっちに来る用事があるって言ってたから」
 そうなんだ、楽しみだね!と笑う友人も自分と同じような格好、つまりゴスロリ調のファッションに身を包んでいる。美人な我が友人はこういう衣装が恐ろしく似合う。子供っぽい顔立ちの自分とは違い、こういうクールビューティ―な人こそ似合うファッションなのかもしれない。
「かなこったら本当にすっごく可愛い!後で写真撮ろうね!」
「もちろん!そっちこそ、すっごくすご~~く可愛いよ!」
お互い「可愛い!」と褒め合うものだから否が応でもテンションが高まる。見渡せばそこかしこで同じような光景が繰り広げられていて、この日のためにカフェ風に飾り付けられた教室内は異様なテンションに包まれている。まさに、祭りの始まる前といったところか。

「高校生になって初めての文化祭、楽しもうね!」
「うんっ!」




 *
 
 県外の高校に進学したいと最初に話したとき、兄さんはびっくりした後に怒った。そんなこと言ってなかっただろうって。そりゃそうだ、兄さんに話したら反対するに決まっているから先に父さんに話したんだもん。父さんがOKを出してくれたら、いくら兄さんといえど反対できないだろうと踏んでの行動だった。もとより勉学に関しては一般家庭よりも理解のある家なので、自分がそこで何を学びたいのかをきちんと説明すれば兄さんも納得してくれるだろうと思っていたし、実際そうなったのだけど。

 自分で選んで進んだ道なのに、たまにふと寂しさを感じる瞬間がある。

 それと同時に頭に思い浮かべてしまうのは、眉を顰めた兄さんの渋い顔。

 その都度、「だからお前に寄宿舎生活なんてまだ早いっていったんだ」という声も聞こえてきそうになって、毎回慌てて気合を入れ直している。寂しいだなんて思ってられない。だってもう高校生なのだから。

 今日は兄さんに高校生のかなこを見てもらうんだ。
 
 少し、ドキドキしている。
 
  *



 高校生活初めての文化祭はまさに初めての連続だ。
 我がクラスは学年で2クラスしか出せない模擬店のクジを引き当て、満場一致でカフェを出すことに決まった。コンセプトは“ドールカフェ”。女のコなら一度は憧れるであろうあの格好は、毎年どこかのクラスが取り入れる定番なんだとか。さすが女子校というべきか。
 こんな格好をすることはもちろん、クラスのみんなでメニューを考えたりクッキーやケーキを焼いたりするのも初めてで。
 たくさんの初めては、本番当日も絶賛更新中だ。
「はい、3番テーブルの紅茶準備できたよー!」
「あれ、クッキーの盛り付けってコレでよかったっけ?誰かチェックしてー!」
 カーテンで仕切られた教室の一角はさながら戦場のようになっている。オープンしてまもないのに結構なお客さんが来店したのだ。慌ただしく動く合間に教室の窓から外を見れば、劇や合唱の行われる講堂に向かう人波と展示や模擬店が並ぶ校内を目指す人波がキレイにわかれている。開場してまだ一時間も経っていないのに、結構な人の数ではないだろうか。
「かなこのお兄さん、いるかな?」
 隣からひょっこりと友人が顔を覗かせる。
「んー。ちゃんと予定通りにアッチを出たって連絡あったから、もう少ししたら着くんじゃないかなぁ」
 この学校の文化祭は一般公開という形をとってはいるものの、在校生の身内もしくは在校生から直接招待された人間じゃないと入校できない。友人は地元の高校に通う彼氏を招待したそうで、
「彼と会うのは久しぶりだからドキドキしちゃうなぁ。かなこはどう?」
「私も少しドキドキしてるよ。普段メールや電話とかしてるけど、やっぱり直接会うとなったら、ね」
 二人で顔を見合わせてにっこり微笑む。家族と彼氏、肩書きは違えど、大切な人と久しぶりに会う高揚感に違いはない。嬉しいような、恥ずかしいような、でもやっぱり楽しみで。友人と同じように、今の自分もキラキラした目をしているのだと思う。


 暫く忙しい時間が続き、時計を見る間も無く給仕を続ける。ようやく仕事にもこの動きにくい服にも慣れた頃、ふと廊下の様子がおかしいことに気付いた。文化祭真っ最中なのだから元よりザワザワしているものの、それとは違う異質な音が混ざっているというか。いや、異質な音、というか黄色い声といった方がいいかもしれない。しかも奇妙なことに、そのざわめきはこちらに向かってきているような……。
 同じように廊下の異変に気付いたクラスメートたちが不思議そうに廊下を見やっている。ちょうど手が空いていたので、代表して様子を見に行こうかと一歩踏み出した途端、

「ちょっ、先輩、歩くの早いですって!」
「あぁ?目的地がわかってんだからさっさと歩くのが普通だろうが」
「で、でも、折角なんだからもうちょっと周囲を楽しみましょうよ!」
「いらん!」

 あ、すっごく聞き覚えのある声がする。

「ほら、久しぶりの再会なんだから眉間にシワ寄せないで微笑んで!」
「うるせぇ!」

 間違いなく廊下は騒がしいはずなのに、二人の声だけがやけにクリアに聞き取れるのは何故だろう。耳に馴染んでいるからだろうか。
 久しぶりに聞く電話越しではないその声に、思わず胸が跳ねあがる。

「おー着いた。ここだ」
「あ、ホントですね。……お客さん多いなぁ。人気なんですね、入れるかな」
「よし、お前並んどけ。俺は煙草吸ってくる」
「えっ、ちょっ!」

 逃がしてたまるか!

「ちょっと兄さん!」

 勢いよく廊下に飛び出せば、予想通りそこにいたのは大好きな我が兄上たちだった。
 突然の登場に驚かせてしまったようで、二人ともそれぞれの目をまん丸にしている。森永さんなんてあの大きな瞳が零れ落ちてしまうんじゃないかというぐらい目を瞠って――すぐに笑み崩れた。
「かなこちゃん、久しぶり!」
「うん、久しぶり森永さん!来てくれてありがとうね!」
 うわぁ久々のイケメンスマイルは眩しいッ!!
 見慣れているはずの自分でさえそうなのだ、こうやって周囲の注目を集めるのも当然だと思う。生徒から一般客の保護者まで、皆うっとりして森永さんを眺めているではないか。ウンウンしょうがない、だって森永さんだもの。しかも今日はテーラードジャケットに濃い色のデニムを合わせたカジュアルフォーマルといった装いで、まるでどこかの雑誌から飛び出てきたモデルさんのよう。普段大学に行くときとは全然違う大人の男といった雰囲気に、そういうオトナに憧れる年頃の女子高生が食いつかないはずがない。ああホラ、研究発表の展示をしている隣のクラスのコたちまで出てきたではないか。
 そうやって教室内外から飛んでくる視線が秒単位で増えていくことを実感していると、
「なんだお前その格好は」
 ものすごく呆れた声が頭上から降ってきた。
 予想通りの反応だったので、敢えて顔を見ないで返事をする。
「可愛いでしょ」
「うん、すっごく可愛いよ。お人形さんみたいで」
 直ぐさまそう褒めてくれる森永さんとは顔を見合わせてにっこりするけれど、その横に立つ先ほどの声の主、兄さんの顔は何故か見ることができない。教室から飛び出した時に一瞬だけ見た兄さんは、いつものメガネに普段通り括ったツヤツヤした髪、そして森永さんと同じくジャケットを羽織っていた。ベージュのそれに柔らかそうなオフタートルを合わせていたからだろうか、記憶の中にある兄さんとは違って随分印象が柔らかかった。あの宗一兄さんなのに、だ。自分の勘違いかと思ってちゃんと確認したくとも、なぜかその顔を直視することができない。うう、兄さんがお洒落していることなんて滅多にないんだからしっかり目に焼き付けたいのにー!
 なんでだろう、あんなに会えるのを楽しみにしていたのに、なんで、こんなに――気恥ずかしく思ってしまうのか。

 立ち止まっていた場所が丁度順番待ちの列の最後尾だったので、そのまま二人にはそこに並んでもらうことにした。大したモノを出せる店ではないので、お客さんの回転は驚くほど早い。今席の大半は団体客で埋まっているので、タイミングがよければあまり待たせずに案内できそうだ。
 そう二人に説明して自分の持ち場に戻るため身を翻した途端、後ろから襟首をグイと引っ張られた。我ながら「ぐえっ」だなんて可愛くないセリフが溢れる。
「ちょっ!苦しいじゃない!」
 慌てて背後を振り返り悪戯を仕掛けた犯人をキッと見やれば、
 

 そこには珍しいことに片方の口角を上げてこちらを見下ろす兄さんの姿があった。


「――ふん、まぁ元気そうだな」
「〜〜っ!」

 こういう不意打ちは本当にやめてほしい。
 鏡を見なくてもわかる。きっと今自分の顔は面白いぐらいに真っ赤になっていることだろう。




「え、ちょっ、かなこどうしたの、その顔!」
「う~、兄さんに苛められた……」
「兄さんってどっち!?長髪と黒髪、どっちのイケメン!?」
「絶対黒髪の方でしょ?だってかなこと似てるもん!」
「あぁっ、ちょっとレベルが高すぎない?二人とも身長何センチなの?」
「オトナの男って感じ〜!何あの余裕っ」
「きゃあ、教室に入ってきた!私、オーダーとりに行ってきます!」
「はぁ?!」
「ちょっ、ずるっ!!」
「私も行く!!」
 どうやら思っていたよりも早く中に入れたようだ。クラスメートが我先にと裏方スペースを飛び出していくのを見送る。自分が行くべきなのだろうけれど、ちょっと一息吐かせてもらいたい。
 少しでも熱を冷まそうと顔を扇いでいると、友人がクスクス笑いながらメニュー表を渡してくれた。団扇代わりにすれば、ということだろう。
「かなこのお兄さんって黒髪の男の人の方なの?」
「ううん、違うよー。よく間違えられるけど、私の兄さんは髪が長い方」
 すると友人の笑みが更に深くなった。
「やっぱり。だと思った」
「え?」
「だってあっちの男の人の方がかなこを見る目が断然優しいもん」
「え、何それ」
「もちろん黒髪の人も優しいんだけど、なんていうんだろ、種類が違うんだよね。長髪の人は……まさに妹を見守るお兄ちゃんっていうか」
 思わずキョトンとしてしまう。さっき意地悪されていたのを見ていなかったのかな。あ、もしかしてコンタクトの度数が合ってないのでは。彼氏が来るみたいだけど、コンタクトを外して眼鏡にしたほうがいいかもしれない。大丈夫、美人は何をしても美人だから、ゴスロリファッションであっても眼鏡がおしゃれアイテムになること間違いない。
 とりあえず「兄さんは人前でそんな顔はしないと思う」と訂正を入れようとしたとき、興奮冷めやらぬクラスメートたちが勢いよく帰ってきた。
「かなこー!!お兄さんたちカッコよすぎぃいい!!」
「お仕事何してる人たちなの?もしかしてモデルなんじゃない?」
「黒髪のお兄さんの笑顔はマジでヤバい。あれだけ背が高いのに笑顔が可愛いって犯罪でしょ!」
「長髪のお兄さんだってヤバいよ!一般人があんな丸メガネかけてたら古臭いのに、めっちゃ似合ってるんだもん!しかも男の人なのに美人さんって言いたくなっちゃう!」
 咄嗟に変な声が漏れそうになった。兄さんが美人さん?そんなこと本人に言おうがものなら、間違いなく「ふざけとるのか!」って雷が落ちそうな案件だけど。
 そのままきゃあきゃあと騒ぎ続けた彼女たちだったが、何事かと様子を見に来た委員長にガツンと怒られた。その隙に、いつオーダーを通していたのか友人が品物の乗ったトレイを渡してくれる。
「暫くお兄さんたちとお喋りしておいでよ。こっちは任せて」
 そうウィンクをしてくる友人に思わず見惚れてしまった。美人のウィンクは破壊力がすごい。そう、美人さんというのは友人のような人のことを指すべき言葉だ。
 友人の彼氏がきたら、真っ先に彼女の仕事を代わってあげよう。

「あ、かなこちゃん、こっちこっち~!」
 フロアに出てキョロキョロと見渡せば、窓際のテーブルで森永さんが手を振ってくれていた。ニコニコと笑顔の森永さんに、ついついこっちもつられて笑顔になってしまう。兄さんはこちらに背を向けているのでその表情は見えない。
「はい、お待たせ!コーヒーと、パウンドケーキでーす」
 いつもの机に麻の布を広げただけのテーブルに、零さないよう慎重にソーサーを置く。可愛くデコレーションされたパウンドケーキはケーキ屋さんの娘監修なので結構本格的な味に仕上がっているはず。一つしか注文が入ってなかったそのお皿は、迷うことなく森永さんの前に置いた。
「わぁ、上手に焼けてるねぇ。これって持ち帰りできないのかな。松田さんのお土産によさそう」
「持ち帰り用だったらレジのところにクッキーがあるよ。プレーンとチョコと抹茶とあるんだけど、松田さんだったら抹茶味が好きそう。結構いい抹茶使って作ったんだよ」
 それは俺も食べてみたいな、と微笑む森永さんはやはりカッコいい。いつもより大人っぽい格好もよく似合っている。本当、このまま雑誌の撮影とかあるんじゃないかな。
 するとすぐ近くから意地悪な声が。
「お前がクッキーねぇ……いくつ焦がした?」
「もう!焦がしてないし!」
 思わぬ疑いをかけられ、ここが学校だということを忘れて盛大にむくれてしまう。兄さんったらそんなこっちの様子を横目で眺め、面白がるような顔をしているではないか。性格わっるーい!
「かなこ、お菓子作り失敗したことないもん!」
「ほう?いつだったかバレンタインに――」
「きやぁぁああ!!!」
 何て古いことを言いだすの!それって小学生のときの話じゃない!
 慌てて兄さんの口を塞ぎにかかるもひょいと逃げられた。なので両肩をがっちり掴んで、
「そ、そんな昔の話なんて無効よ!」
「そうかぁ、あれは確か同じクラスの、」
「〜〜〜!!!」 
 更に忘れてほしい過去を掘り返さなくていいから!激しく動揺する妹の気を知ってか知らずか、相変わらず兄さんの瞳にはからかうような色が浮かんでいる。ここが学校でなければその胸をバシバシ叩いていたかもしれない。まるで家にいるときのように。
「忘れてよ!」
「あいにく俺の記憶力は優秀でな。そうそう簡単に忘れることができねーんだよ」
 盛大にむくれて目の前の兄さんを睨むと、兄さんが「ふふん」と軽く鼻で笑う。電話ではわからなかったその表情を目にするたび、無意識に感じていた緊張がゆるゆると溶けていくのがわかる。ついさっきまで顔が見られないだなんて思っていたことが嘘みたいだ。
「ほら、そんなにむくれるな」
「誰がこんな顔させたと思っているのよ」
 思わずぷぅと膨れてみせると、兄さんの頬が緩んだ。そんな顔をされると、こっちの頬まで緩んでしまうではないか。それまでの妙な気恥ずかしさはどこへやら、今はその父さんとそっくりな理知的な瞳を真っ直ぐに見つめそう思う。
 いつも一番近くで見守ってきてくれた、優しくて暖かな瞳。この瞳に自分が映っているのだと思えば、昔からとても安心することができた。それはホラ、今だって。

「何か変わったことはなかったか」
「うん、何もないよ。昨日もそう話したじゃない」
「そうか。そうだな」

 電話で話した内容でも、こうやって顔を合わせて話せばその感じ方が全然違う。
 なんだか嬉しくなって、つい最近も電話で話たばかりの内容を次々に口にした。兄さんは一度聞いたことがあるにも関わらず相槌を打ってくれ、森永さんはニコニコと見守っていてくれる。こんなに居心地のいい空間にいると、まるで三人で松田さんちにいるような錯覚に陥る。こうやって二人の間にいれば、いかに自分を大切に思ってくれているのかがわかって擽ったい。


 本当は、聞かなくってもわかってる。

 今日二人が大人っぽい格好をしてるのって、お祭りとはいえ妹の学校を訪ねるのだからピシッとした格好をしなきゃと気遣ってくれたからでしょ?

 兄さんがからかうようなことばっかり言ってくるのは、こっちが久しぶりの再会に照れていることがわかってるからでしょ?

 他人からみても優しい目をしているのは、本当に大事に思ってくれているからでしょ?

 少しだけいつもより口調が疑り深いのは、こっちでの生活がどうなのか気になっているからでしょ?


 大丈夫、かなこは高校生活を楽しんでいます。兄さんが心配に思うことなんてないよ。安心して、何かあったらすぐに兄さんに相談するから。
 大好きな兄さんに、少しでもこの想いが届いてくれますように。 





「ところでかなこちゃん、誰か中学の頃の友達とか呼ばなかったの?ここの文化祭って在校生の紹介がないと入れないんでしょ?」
「うーん、中学のお友達は来たいって言ってたんだけど、なんせ県外だから……。だけど別なお友達は一人呼んでるよ」
「別な友達?」
 兄さんが訝しげにそう聞き返したとき、なんともタイミングがいいことに真後ろからそのお友達の声が聞こえた。

「あっれー二人とも、今日は随分とカッコいいじゃん」
 
 途端に“ガタガタッッ!!!”と派手に椅子が倒れる音が響き渡る。

「いっ、磯貝ぃぃぃいいい?!?!?!」
「はぁい、磯貝お兄さんだよっ」
 フリーズする二人は何のその、颯爽と登場した磯貝さんは空いている椅子にさっさと腰をおろした。そしてニッコリと微笑む。
「かなこちゃん、今日はお招きありがとう。それってこのクラスの制服なの?お人形さんみたいだねぇ。すごく可愛くて似合ってる」
「えへ、ありがと。来てもらえて嬉しいけど、お仕事大丈夫?」
「モチロン。ちょうどこっちに来てて良かったよ。こんな機会でもなきゃ女子校の文化祭なんて入れないからね」
「……出テ行ケ……今スグココカラ出テ行ケ……」
「何言ってるの宗一君、俺いま来たばかりだよ?もうちょっとゴスロリ調のメイドさんを堪能させて」
「!こっ、この変態やろうがぁぁああ!!」
「せ、先輩落ち着いて!ここかなこちゃんの学校ですからぁ!」
「つーかかなこ!何でこんなヤツを呼んだんだ!」
「えー、だってこっちに来る用事があるって聞いてたし」
「そうそう、出張、出張」
「「嘘だ!」」
「そんなところでハモんないでよ、相変わらず仲良しだね(ここで兄さんが森永さんを殴る鈍い音が響く)嘘じゃないさ、だってホラ、ちゃんとスーツ着てるでしょ?ていうか宗一君はともかく、森永君まで疑うなんて……」
「磯貝さんもコーヒーでいい?」
「あ、うん、お願い。その前にかなこちゃん、写メ撮っていい?」
「はぁ?!ダメに決まってんだろ!」
「なんで宗一君に拒否されるのさ。黒川たちに送ってやりたいから一枚撮らせてよ。かなこちゃんのこんな可愛い格好、巴君も喜ぶと思うな」
「ばっかやろ!俺が撮るからいい!お前にはやらん!」
「そうですよ!磯貝さんにかなこちゃんはあげません!」
「え、まって、何か争点が変わってる」
「もうっ!兄さんたちったら静かにして!」


 全く、いつもこんな調子なんだからっ!
 教室中の注目を集めていることに気付かないんだろうか。ほら、廊下に人垣ができているのって兄さんたちのせいだと思うんだけど。各人もうちょっと自分が目立つ容姿だってことを自覚してほしい。
 あれ、なんかこういう事態って前にもあったような。
 とりあえず三人がコーヒーを飲み終わったら(森永さんはケーキも)、委員長にお願いして少し抜けさせてもらおう。
 絶対騒がしいだろうけど、四人で文化祭を回るんだ。そして巴兄さんたちにスカイプか何かを繋げてもらって、たくさんお喋りしよう。そうしたら、まるでみんなで回っているように思えたりして。

 こんなことではしゃぐと高校生らしくないって思われるかな。
 でもしょうがない、今ばかりは高校生って立場よりも妹を満喫させてほしい。
 大好きな人たちと一緒にいるのだから。


「かなこっ!今すぐ携帯からこいつの連絡先を消せ!」
「ついでに磯貝さんは先輩の連絡先を消してください!」
「それは今関係ないでしょー」


 
 高校生になって初めての文化祭、間違いなく楽しめそうだ。















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