君のタメに

 連休真っ只中なのに、どこからか風邪菌をもらってしまいました。
 もう咳と鼻水が止まらない止まらない。
 熱はそこまで高くないのですが、明日から旅に出るので一晩で治さねばと思っております。

 以下、前回の記事に鍵付きでコメントを下さった方へのお返事になります。

   4月29日の記事にコメントを下さったお客様へ
  あま〜〜〜いお話でしたが、喜んでいただけたなら何よりです!
  今回も甘味成分多め(当ブログ比)ですが、少しでも楽しんでいただけますように(*´v`)
 


 
 今回のお話は兄さんからの「あーん」第二弾です。お互いがお互いの喜ぶ顔を見たくて買い物するってステキですよね。
 自分で書いておいてアレですが、作中の八百屋の親父さんのように二人を見守りたいです(またか)。


 ではでは、よろしくお願いいたします。










「おっ、いらっしゃい!今日は会社お休みかい?」

「こんにちはー。ええ、今日は代休なんです」

「そうかそうか、じゃあ旨いもんいっぱい食べてゆっくりしなきゃな。今日はいい青物が入ってるぞ」

「あ、本当、キレイな色ですね!……じゃあそのほうれん草とアスパラをもらおうかな」

「毎度!他は良かったかね?」

「そうだなぁ……何かお酒のツマミになるような……あ、そこのソラマメ美味しそう」

「いい目をしてるね!これは上物だよ。下手に手を加えないで、コンロのグリルで焼いて塩付けて食べれば絶品よ!」

「うわぁいいですね!じゃあソラマメもお願いします」

「よしきた!今包むから待ってな。……そういえば、今日はいつもの兄ちゃんは一緒じゃないのかい?あの長髪丸メガネの」

「(ドキッ)あ、彼は今日仕事なので……」

「あぁそうか。お前さんたちは二人とも、なんていうんだ、イケメンっていうのか?目立つからな、二人が一緒にいないとなんか違和感があるんだよなぁ」

「え、目立ってます?」

「おう。ここの商店街じゃあちょっとした有名人よ(二人が歩いてるとおばちゃん連中の手が止まるんだよなァ)」

「そうですか……(先輩がこんなこと知ったら一緒に買い物してくれなくなるだろうなぁ)」

「あの兄ちゃんは元気か?ちゃんと仲良くしてるか?」

「え、えぇ元気ですよ。仲良くは……えぇと……」

「なんだ、喧嘩でもしたのか(やっぱりなぁ顔が暗いんだよ)」

「はぁ、まぁ……」

「なんだよ早く仲直りしちまいな!なんで喧嘩したのかしらないが、このソラマメを食べさせてやって、ごめんって謝ればすぐ仲直りできるから」

「あはは、はい、試してみますね」

「よし!次は二人で来てくれよ。……はい、お代はちょうどいただきました。毎度あり!」





「(……テキトーにうまそうなやつ)」

「いらっしゃい!兄ちゃん一人とは珍しいな!」

「!あ、ど、どうも……(なんだよ顔覚えられてんのかよ)」

「何を差し上げましょう?」

「あー、えっと、何か果物を……」

「そうさな、ちょうど今日はオススメがあるんだよ。ちょっと待ってな。……はい、これ!まだ少し旬には早いけど、とびきりの初物だよ」

「これは……枇杷?」

「苦手かい?」

「あ、いや、食べるのは俺じゃないんで……まぁ、土産というか」

「(!ははーん)そうかそうか。贈答用に箱の用意もできるけど」

「いや、そんな畏る相手でもないんで……じゃあそれで」

「はいよっ。……この枇杷な、俺も一つ食べてみたけど、ほっぺが落ちそうなくらい甘くて味が濃いんだよ。これ食べたらどんな相手も笑顔になるよ!」

「はぁ……」

「それが喧嘩中の相手でもな!(あの長身の兄ちゃんならすぐ笑顔になるだろうよ)」

「?!(なんだこのおっさん!!!)」

「はい、これお釣りね。また来てくれよ!」




「今、例の長髪メガネの兄ちゃんが来てくれてたぞ」

「えぇ?!なんで呼んでくれないのよ!今朝だって長身のイケメン君がきたときに声かけてくれなかったでしょ!奥にいたのに!」

「あー二人とも買い物すぐ終わったからなぁ(どういう関係なのかしんねーけど、早く仲直りしろよ)」





 帰宅すると、今日一日代休だった森永が夕食の準備を整えたところだった。
「先輩、おかえりなさい」
「……ただいま」
 ぼそっと挨拶を返し、自室へ逃げ込む。
 森永と喧嘩、というか言い合いになったのは今朝のこと。
 今日は休みなんだからゆっくり寝とけばいいのに、アイツは俺の朝食の用意をするためだけにいつもの時間に起きてきた。
 それくらい自分でするっていってるのに「まぁまぁ」といつもの笑顔でかわされてしまい、腹が立ってガキ扱いすんじゃねぇとかバカにすんなとか朝っぱらから怒鳴りつけてしまった。
 俺の暴言はいつものことだから苦笑いしてたけど、そんな顔させたかったわけではない。
 ただ、俺の世話なんてせずにゆっくり寝ててほしかっただけなのに、どうもうまく言葉が紡げない。何ていうのが正解だったんだ? 

 こういうとき、自分の不器用さが嫌になる。



 お互い今朝のことには触れないまま夕食を終え、入浴を済ます。
 なんとなく部屋に戻りたくなくて、見る気のないテレビを眺めていると
「先輩、晩酌しましょ」
 風呂上がりの森永が、ビールと何か黒焦げの物体を皿に乗せて運んできた。
「なんだその黒焦げは」
「へへー、ソラマメです」
 さやごとグリルしてるので、中のワタのおかげでいい感じに蒸し焼きになっているらしい。火傷しないようにね、と森永が声をかけてきたが、これはどう気をつけても熱い。
 さやを割って一粒取り出し、熱いのを我慢して薄皮を剥ぐ。添えられていた小皿の塩をちょんと付け、口へ運ぶと
「……!美味い!」
 思わず目を見開いてしまうほど美味い。自然と口元が綻んだ。
「本当?良かった」
 そんな俺の様子をみて、森永が嬉しそうに微笑む。何がそんなに嬉しいんだか。
 どうせならこのタイミングで出すかと席をたち、森永が風呂に入っている間に冷蔵庫に入れておいた枇杷を持ってきた。ソラマメと格闘していた森永の前に皿を突き出す。
「ん」
「え、枇杷?どうしたのこれ」
「いいから食えって!」
 半ば押し付けるようにして皿を渡し、再びソラマメに手を伸ばした。
 えぇえ買ってきてくれたの何でどうして嬉しいありがとうと騒ぐ馬鹿をガン無視して、ソラマメを口に放り込み、ビールを傾けた。

 暫くして、隣から息を飲む気配。
「……美味しい!」

 チラリと視線をやると、森永がキラキラした目で手元の果実を凝視している。
「先輩!この枇杷めちゃめちゃ美味しいです!すっごく味が濃くって甘い!」
 ありがとうございます、と続ける顔には満面の笑みが浮かんでいて。
 なんとなく、ほっとした。
 そうだよお前はそーいう顔をしとけばいいんだよ。
「先輩も1個食べてみません?手汚れるから俺が剥きますよ」
 そういって森永は、見た感じ一番大きな枇杷を選んでキレイに皮を剥き、
「はい」
 といって俺の口の高さにそれを掲げた。
「ん」
 パクリと唇で挟み、森永の指先から果実を奪う。
 森永が摘んでいた枝の部分を自分の指で持ち直し、歯で実を削ぐようにして味わう。
「……確かに濃いな。甘ェ」
 八百屋の親父の食レポは正確だったということか。
 ふと隣を見ると、真っ赤な顔で締まりのない笑顔を浮かべている。熱でもあるんじゃないか。
「んだよ」
「なんでもないです」
 ふにゃけた顔に熱々のソラマメのさやを押し付けてやろうかと思ったが、休日の締めとしては不憫かと思って自粛した。学生時代ならいざ知らず、社会人になってまで顔に傷をつけて出社させるのは忍びない。
 そのかわりに
「おい、こっち向け」
「え?」
 枇杷の皮剥きに専念していた森永がキョトンとした顔でこちらをみる。
「口開けろ」
「え?」
「早く」

 森永は顔中にクエスチョンマークを浮かべながらも素直に口を開けたので、薄皮を剥いたばかりでまだ熱いそれを少しでも熱が冷めるように2回息を吹きかけてから、口内に放り込んでやった。

「〜〜〜!!!」
「あ、わり、まだ熱かったか」
 放り込んだ瞬間に一気に顔が赤くなり口元を両手で抑えるもんだからてっきり熱かったのかと思ったが、ブンブンと頭を横に振る様子からみてそうではないらしい。
「あの、先輩、もう一個……!」
「甘えるな。今のは枇杷のお返しだ。熱いの我慢して剥いてんだから、お前にやるぐらいなら俺が食うわ」
「いえもうその薄皮でいいから『あーん』をもう一度……!」
「死ね!」
 実のかわりに熱々のさやを投げつける。せっかくさっき自重してやったのに意味ねーじゃねぇか!
「熱っち!!ひどいぃぃ!!」
「自業自得だボケ!!」
 両手で顔を抑えて身悶える馬鹿に、ペッと唾を吐きかける。火傷の心配はしていない。なぜなら両手の隙間から口元が緩んでいるのが見て取れたから。
 暫くして、鼻のてっぺんに煤をつけた森永が
「先輩、ごめんね」
「なにがだ、お前の存在がか」
 そう言ってやると、またそんなこといって、とヘラヘラ笑う。
 こっちこそ今朝のことを謝るべきだろうが、なかなかコイツのようにはうまく口に出せない。
「お前、今日はゆっくりできたのか」
「はい、もちろん。家のこともできたし、買い出しにもいけたし」
「ゆっくりできてねぇだろ、それ……」
「そんなことないですよー?しかも締めに先輩と晩酌だなんて、最高の休日ですよ」
 ビールの缶を持ちあげ、俺にも缶を持つように促す。
 カチン、と軽くお互いの缶をぶつけると

「いつも俺のこと気遣ってくれてありがとうございます」
 
 じっと目を合わせ、心底幸せそうな笑顔でそう言うから。
 もう今更口に出さなくても、俺の気持ちは伝わっていると確信した。
 
 気恥ずかしくなったので慌てて目を逸らし、手元のソラマメに集中するフリをする。
 まだ森永がこっちを見ている気配があるが、あの笑顔で見つめられると変な気分になるから正直困る。いや、嫌いとかではないけれど。寧ろいつもそういう顔してろとも思うのだが。なんでそんな風に思うのかは考えてやらないことにしている。
 

 まぁとりあえず、八百屋の親父には心の中で感謝をしておくか。

 






 ビールに枇杷は合わないですよね……((´・ω・`;))
 
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