春をあなたと・蕾

 暴君10巻の書影を確認して、大変浮かれております。
 森永君から溢れ出る幸せ感が半端ない(゚д゚)
 兄さんの表情もこれまでとは違っているような??
 手元に届いたら、全巻並べて表紙を見比べたいと思います。
 暴君歴(?)の浅いワタクシ、リアルタイムでコミックを手にいれるのは初でございます。浮かれています。
 明日が発売日にならないだろうか(無理)。
 

 そして、誰もこんなブログ見つけないだろうと完っ全に油断していたので、まさかお越し下さる方がいるとは夢にも思っていませんでした。拍手までいただけるなんて( ノД`)本当にありがとうございます。

 以下、コメントを残してくださった方への私信になります。
 こちらこそ、幸せになれるコメントを頂きましてありがとうございました!
 見間違いかと思ってログアウトしてしまうほど、嬉しさに動揺してしまいました(;_;)
 私も森永君大好きですよ!10巻表紙の幸せ感一杯の森永君、こちらも笑顔になりますよねぇ。
 これからも細々と書いていけたらと思っていますので、温かい目で見守って頂けたら幸いです。



 今回も長い文章になります。
 ……短く文章をまとめる能力ってどこかに売ってませんかね(´;ω;`)

 よろしくお願いいたします。
 







 今年の春は玄関から入ってきた。

「……なんだそれは」
「えへへー、なんだと思います?まだ蕾なんです」
 今夜は会社の送別会だとかで遅くに帰宅した同居人が持ち帰ってきたのは、新聞紙に包まれた木の枝だった。珍しく酔っているのか、仄かに顔が赤い。
「まさかテメェ、その辺の枝折ってきたんじゃねぇだろうな」
「違いますよッ!ちゃんと花屋さんで売ってたんです!」
 こんな遅くまで開いている花屋があるのかと思ったら、どうやら飲み屋街の中にある花屋で見つけたらしい。確かにあーいう場所にある花屋は深夜まで営業している。場所柄プレゼント用のアレンジメントがメインだろうが、店に飾るための花材も置いているのだろう。まぁサラリーマンがこれを買い求めることは稀だと思うが。
 上機嫌でカウンターに包みを置く大型犬の背に、我ながら呆れた声音で言葉をかける。
「お前なぁ……これどこに飾るつもりだよ。うちに花瓶なんてねぇだろ」
 キョトンとした顔で振り返った大型犬は、
「え、大き目の空き瓶とかじゃダメですかね」
 確か次の回収日に出さないといけないものがあったはずなんですよー、と予想通りの呑気な回答を聞き、思わず大きな溜息がでた。
「お前、花生けたことないだろ。枝物ってそんな簡単じゃねぇんだぞ……」
「え、ダメなんですか?」
「ダメってことはねーけど……」
 カウンターに近づき、新聞紙に包まれた枝を一瞥する。いくつか綻びをみせている蕾もあるが、まだ完全に開いているものはないようだ。なかなか見事な枝振りだが、そのおかげで嵩張るそれを後生大事に抱えて電車に乗ったであろう森永を想像すると少しおかしく、心の中でこっそり笑った。
「この感じだったらちゃんとしたヤツに生けてやったほうがいいな。明日松田さんちにいって花器借りてくるから」
 そう告げると、たちまち大型犬の尻尾と耳が垂れ下がった。目に見えてしゅんとなる。
「ごめんなさい……俺が思いつきで買ってきちゃったのに、先輩に迷惑をかけてしまうなんて……」
「いや、松田さんに顔見せられると思えば別に。そのかわり、明日は少し遅くなるからな」
 はい、それはモチロン!と大型犬の垂れ下がっていた耳がピンとたち、勢いよく尻尾が振られる幻覚がみえる。それまでしょげかえっていたのがウソのように、なんとも立ち直りの早い犬だ。明日は直帰できるので張り切って夕飯作りますからねと鼻息が荒い。
 とりあえず今日はバケツにいれておくことにする。本当は水切りをしたほうがいいのだが、あいにく花鋏はうちにない。これも明日借りてこなければ。
 早く咲いてほしいので、比較的暖かいリビングにバケツを置いておくことにした。
「しかしなんで買ってきたんだよ」
 いつにない森永の行動が今更気になり聞いてみると、
「だって、この花が咲く頃って先輩も俺もバタバタしてるから……一緒にお花見したいけど、タイミング逃すと散っちゃうし」
 学生の頃は構内や登下校中にできたけど、と少し切なげに微笑む。

「家で咲いてたら、いつでも一緒に見れるでしょう……?」



***



 玄関の扉が開かれた気配があった。一拍おいて、ただいまという声。
「おかえりなさい」
 コンロの前で仕上げの味付けをしていたので、菜箸片手にリビングのドアが見える位置まで移動する。廊下から聞こえる足取りは、常のそれと違って少々遅い。カチャリとノブが回り、ドア前に何か重いモノが置かれる音がした。
「おかえりな……わっ!」
 宗一が持ち帰ってきたその重いモノは、紙袋を三重にした中にドッシリと鎮座していた。すっかり赤くなった右の掌を軽く振りながら宗一が言う。
「松田さんが、ぜひこれにといってくれてな。ある程度重さがあるから、テキトーに突っ込んでも倒れやしないってさ」
 あーあとこれ今夜のおかずにって、と紙袋の隅に入れてあったタッパーを手渡してくる。ひとまずタッパーを受け取り、そのままひっこめようとした宗一の右手を掴む。
「ごめんなさい、こんなに重いのを持ってきてもらって……手、真っ赤じゃないですか……痛いですよね、ごめんなさい」
 自分の思いつきで宗一はもちろん松田まで巻き込んでしまったことにしょんぼりしていると、突然頭頂部にげんこつが落とされた。
「?!?!?」
「バカ野郎、こういうときはごめんなさいじゃないだろうが」
 掴まれていた右手を振りほどき、宗一がさっさと背を見せる。そのまま自室に向かおうとし、つと視線だけこちらに寄越した。
「お前、家ん中で俺と花見したかったんだろ?」
 
 あ。

 漸く言うべき言葉に気づいて、今度こそ自室へと足を向けた背中に声をかける。
「っ……先輩、ありがとう!」
 おー、と振り向きもせず、愛しい人は痛めた右の掌をひらひら振ってこたえてくれた。



 フローリングには、松田から借りてきた重量のある信楽焼きの花瓶と、昨夜持ち帰った枝が新聞紙の上に並べられている。キッチンからリビングの様子を伺うと、こちらに背を向けた宗一は正座をしており、花鋏を片手に枝をくるくる回しているようだ。暫くいろんな角度から眺めて正面を見極めたのか、花瓶の高さを確かめ、枝の下方から伸びている枝を整え始めた。根本を整えるときは少し手こずっていたようだが(だって結構太かった)、順調に作業を進めていく。
 なかなか様になっているその姿に、しばしうっとりしてしまう。これで和装だったら、華道の家元といわれても違和感がない。まさかとは思うが、生け花を嗜んでいたことでもあったのだろうか。
 宗一が生け終わる前にこちらも仕上げたいので、手元のフライパンに注意を戻した。今夜はブリの照り焼きにほうれん草の白和え、ジャガイモと若芽の味噌汁。作り置きのレンコンのきんぴらは出さずに、松田からいただいた小鯵の南蛮漬けを並べることにする。
 それに冷蔵庫で冷やしているエビスをつけよう。
 花見にはまだ早いが、疲れているのに重いモノを持って帰ってきてくれた宗一をねぎらう意味を込めて、だ。
 

「……先輩って生け花の経験があるんですか……?」
「んなわけねーだろ。早く食おうぜ」
 花瓶の前から正座して動けないでいると、宗一がイライラした声で着席を促す。
「いや、だって、これ、すごいですよ……」
 テレビのサイドボードの隣に据えられた花瓶には、大胆かつ優雅に枝物が生けられている。枝の反り具合や生え方に沿って、まるで1本の枝から生えてきているような自然な流れがつくりだされており、実際は複数の枝をあわせているのに全く不自然さがない。暖かいリビングに置いていたせいか昨日よりも綻んでいる蕾が多く、満開になったらどんなに見事だろうかと枝振りをみているだけで楽しみになってきた。
「俺、生け花とか全然わかんないけど、これってお役所とかの入口に飾――いだいっっっ!!!!」
「メ・シ!」
 痺れを切らした宗一のげんこつが本日二回目の頭頂部に落とされた。冗談抜きで、泣くほど痛い。視界の中で、星がいくつも明滅した。
 食卓に着いてからもメソメソしていたものの、宗一の「お、これ美味いな」の一言で一気に目尻が下がる。つくづく単純だと思うが、愛する人からの賛辞は大小構わず嬉しいものだ。また近いうちにブリ照りを作ろうと心に誓った。


 風呂からあがると、宗一がリビングで資料をめくっていた。
「先輩、お茶淹れましょうか?」
「ん、頼む」
 二人分のマグを持ってリビングに入ると、おそらくBGM程度につけていたのであろうテレビからは桜前線の到来を告げるニュースをやっていた。
「いよいよですね」
 マグを受け取るときに画面を一瞥した宗一が何の気なしにつぶやく。
「この部屋の方がその辺の桜よりも先に見ごろになるだろーよ」
 その言葉に少し驚く。
「先輩、あの枝が桜って気づいてたの?」
「あっっったり前だろ!バカにしてんのか!」
「え、いや、先輩ってそっち方面には関心ないのかと思ってて……咲かないとわかんないかなって」
 てへっと小首を傾げて誤魔化したけど、本日三回目のげんこつが落とされた。三度目ともなれば慣れそうなものだが、痛いものは痛い。
 涙目になりながらも宗一の様子を伺うとそのまま資料の続きを読みだしたので、先程から気になっていたことを尋ねてみることにした。
「ね、先輩」
「んだよ」
「どうして生け花の経験がないのに、あんなに上手に生けられるの?」
「どうしてってお前……」
 視線を資料に落としたまま、宗一がこたえる。
「母さんの仏壇に供える花、俺がやってたんだよ。見よう見まねだけど、まぁそれなりに長かったからな」
 想像していなかった回答に思わず言葉に詰まってしまうと、宗一は顔をあげて花瓶に生けられた桜を見やる。
「花鋏ってな、持ちにくい上に切れ味がものすごいんだよ。巴やかなこが扱える代物じゃなかったから、自然と俺がやるようになったっていうか」
 桜を見つめる視線は常のそれより柔らかい。
「母さん花が好きだったから、お供えの花は母さんが喜ぶように、きれいにみえるようにって下手なりに毎回頑張ってたよ」
 でもこの桜の場合は、とそこまで続けたあと、少し言葉を選ぶ様子をみせた。
「――お前が俺と花見をしたいっていうから、どう生けたらいいかってちょっと悩んだ。きれいに生けるのは当然だとしても、どうすればこう、満足っていうか……お前が喜ぶかっていうか……」
 考え考え喋っているはずなのに、宗一は今、トンデモない発言をしたことに気付いていない。実験の手順を説明するように生真面目な顔で投げ入れの難しさを語っている。
 いつもなら宗一の発言の一言一句も聞き逃したくないのだけど、今だけはどうか見逃してほしい。宗一の何気ない一言のせいで、心はもういっぱいいっぱいだった。限界水域を越えて、宗一への想いが溢れ出てしまいそう。

――先輩が俺のために、俺を想って、生けてくれたの。

「ただでさえ枝物って難しいし、俺自身そんなに生けたことも――ってうわ!お前なんつー顔してんだよ!」
「せ、せんぱぁい……」
 ソファーの上で宗一が後ずさりしている様子からすると、どうやら涙が出そうなのを必死に堪えている顔がとんてもなくひどい顔になっているらしい。笑え、自分。
「ありがと……」
 にひゃっという表現がぴったりであろう自分の顔をみて、宗一の眉間にシワが刻まれる。でもそれは怒っているわけではないということぐらい、ほのかに赤くなった宗一の耳をみれば自明のこと。後ずさりをされた分、座り直して距離を詰める。
「俺ね、昨日、花屋さんでこれを見かけたときすっごく嬉しかったんです」
 送別会のお店に行く途中にあった花屋さんなんですけど、二次会断って走って戻って。
 帰ってくるまで結構視線感じたけど、これが咲いたら先輩と一緒に桜をみられるって思ったら、全然そんなの気にならなくて。
 とつとつと語る自分には目もくれず、宗一の視線は資料に落とされたままだ。
 でも、その視線は先ほどから同じ箇所を往復していて。
「これから毎年、この季節には家に桜飾りましょ。そして二人で毎年、お花見しましょうね」
それはこれから先も二人が一緒にいることが前提の約束。さりげなく会話に仕掛けられた、甘い罠。調子に乗るな、と怒られるか、それとも。
「……買ってくるのはお前だからな。俺はあんな嵩張るモン、抱えて歩くの嫌だからな」
 仕掛けた甘い罠を、おそらく充分承知の上で引っかかる。だってほら、さっきよりも耳が赤い。
「あ、生けられなかった枝で蕾がついてるヤツまとめてるから、お前あれどこかに飾っとけ」
 多分咲くから、と、この話はここまでだと言わんばかりに宗一は視線を手元の資料のページを捲った。あえて罠にひっかかってくれたことがわかったので、そっけない態度をとられても心がほんのり温かい。
「咲くの、楽しみですね」
「あぁ」
「咲いたら、お花見しましょうね」
「おう」
 

 ――春がリビングに訪れるまで、あともう少し。
 

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