花に例えると。

 先日の兄誕、楽しかったですね~。色んなところで兄さんがお祝いされてて、大変楽しませていただきました☆どこのお宅の兄さんもバイオレンスで色気あって可愛くて天使のようでした……(ノω`*)ノ

 以下、前回の記事に鍵付きでコメントを下さった方へのお返事になります。

 8月2日にコメントをくださったお客様 
 初めまして!とても嬉しいコメントをありがとうございます(^_^)私のお話は結構(というかだいぶ。涙)ワンパターンなのですが、少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです。お互い暴君歴は浅いですが、これからも嵌って参りましょう(´ω`人)♪


 今回のお話は花の日(8月7日)にちなんだものです。私のイメージでは兄さん→カサブランカ、森永くん→ヒマワリなのですが、いかがでしょう。


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 時刻はもう19時前だというのに、外を歩けば昼間の熱が残っているのか足元のアスファルトから熱気が上ってくる。夕日も完全に落ち切っておらず、西の空は濃い橙色やピンク、朱色といった色で鮮やかに染まっている。もう少しすれば、東の空のように薄青い色に塗り替えられるのだろう。
 森永は一足先に帰宅しているようだ。今夜は麻婆茄子だとメールが入っていた。暑さでどうも食欲の落ちるこの時期、自然と学食で選ぶ昼食は蕎麦や冷やし中華といった冷たい麺類が増える。それを見越して、森永は昼間選ばないようなガッツリ系のメニューを夕飯に用意してくることが多い。とてもじゃないけど昼間だと食欲の湧かないメニューでも、森永の作る夕飯だと美味そうに思えてくるから不思議なものだ。アイツ、なんか薬でも盛ってるじゃねぇの。
 ふと、足元の熱気が途切れる。チラリと目を向けるとそこは花屋の軒先で、どうやら内水をした直後だったらしい。
 普段ならただ通り過ぎるだけの場所なのに、なぜか、表に並べられていた花桶の一輪に目が留まった。花自体は直径10cmほどの小振りなものだが、中央の茶色い管状花の周りを彩る黄色の舌状花は紛れもなくヒマワリだ。
「どうですか?」
 急に声をかけられて飛び上がりそうになった。ちょうど死角だった店の右手から、人の良さそうな顔をした年配の男性店員が現れた。手元には空になった花桶をいくつか抱えている。
「そのヒマワリ、今日仕入れた分の最後の一輪なんですよ。この時期ですからね、ヒマワリは特に出るんですけど。そのコだけ、残っちゃって」
 よいしょっ、と抱えてた花桶を店の入口脇に置きながら、店員は言葉を続ける。
「一輪挿しがなくても、ちょっと背の高いコップや空き瓶に入れても素敵ですよ。花が一輪あるだけでだいぶ部屋の印象が変わりますし、ヒマワリだったら男性の部屋にあってもそれほど違和感ないでしょう」
 そう言って、穏やかな笑みを浮かべた。
「あ、いや、俺は別に」
「もしかして、彼女へのプレゼントでしたか?」
「はぁ?!」
 予想外の方向からきた言葉に、一瞬思考回路が停止する。すると店員はその反応をどう捉えたのか、より一層笑みを深くして、
「でしたらヒマワリは最適だと思いますよ。なんせ花言葉は――」
 それを聞いて、なぜだかわからないが同居人の顔が浮かんだ。そういえば、ヒマワリという花そのものがアイツを連想させる。むやみにでかいし、大輪の花は奴の底抜けに明るい笑顔を思い出させる。


 だから、思わず頬に赤みが上ったのは、昼間の名残の熱にやられたからであって。

 決してこういう場面で森永を思い出してしまったからではない。






 まだ8月に入ったばかりだというのに、全国的に連日猛暑日が続いている。日中は空調の効いた室内にいることが多いとはいえ、朝夕の通勤だけでも相当に体力を削られる。しかし会社に着いてしまえば涼しい環境が待っている自分はともかく、先輩の場合は炎天下のキャンパス内を移動することが多い。こういうときこそしっかり食べて、夏バテをしない身体になってもらわねば。
 今日のメインは旬の茄子をたっぷりと使った麻婆茄子。同じく夏野菜のピーマンと合わせて先輩好みのピリ辛味に仕上げた。茄子は2袋購入したので、使い切らなかった分は簡単に煮びたしにして冷蔵庫にいれておく。暑さで食欲のないときでもするっと入るので、この時期重宝する常備菜だ。あとはニンニクを効かせたニンジンのサラダにトマトと卵の中華スープ。どうせこの時期のお昼はあっさりしたモノだろうから、一緒に食事ができるときは栄養たっぷりなものを食べてほしい。そんな思惑を秘めながら夕飯は絶対先輩一人では選ばないようなガッツリ系のスタミナメニューを用意することが多いのだけど、今のところ先輩から文句は出ていない。

 全ての準備が整った頃、カウンターに置いてた携帯がメールの着信を告げた。
「あ、」

『Re:帰り着きました! 本文:今から帰る』

 目を通した瞬間、自分の顔が緩むのがわかる。たった一言だけど、愛しい人からのメールはなんだって嬉しいものだ。この嬉しさに慣れることは一生ないのかもしれない。
 料理中は匂いが籠るので開けていたリビングの掃出し窓を閉め、エアコンを入れる。先輩が帰ってくるまでには部屋も冷えるだろう。今日もかなり暑かったから夕方の今も昼間の熱が残っている。きっと先輩は汗だくで帰ってくるだろうから(実際自分がそうだった)、先にお風呂場に直行するかもしれない。
 BGM代わりに点けていたテレビではちょうど天気予報が終わるところだった。明日も猛暑日になるようだ。暑さ対策を万全にと気象予報士が結び、カメラがキャスター陣を映した瞬間、スタジオに生けられた白くて美しい花が目に留まった。

(あ、ここにもカサブランカ)

 昼間の出来事を思い出した。




「あ、すまん。さっきの会議室に忘れ物してきた。ここで待っててくれるか」
「はい、わかりました」
 上司が慌てて踵を返し、来た道を戻っていく。会議室のあったフロアは5階。おりよく到着したエレベーターに飛び乗り、上司の姿は見えなくなった。ロビーの中心に立っていては通行の邪魔なので、付き添ってくれていたこの会社の女性担当者とともに壁際に退く。
「お時間は大丈夫ですか?」
 担当者が予定を気遣ってくれるが、あとはもう自社に戻るだけなので、そう時間に追われているわけでもない。そう伝えると、彼女は安心したように微笑んだ。それから上司が戻ってくるまで先ほどの会議について話していたが、どこかで人に捕まったのか、なかなか上司が戻ってこない。会話の接ぎ穂がてら、「戻ってこないですねー」とキョロキョロとロビーを見渡した時、受付に置いてある大きな花瓶が目に入った。花の名前にそんなに詳しくない自分でもわかる、その存在感抜群の大輪の白い花は
「あれ、ユリですよね」
「そうです。品種としては、カサブランカになりますね」
 彼女は花に詳しいのか、カサブランカについて色々話してくれた。「ユリの女王」という異名を持つことや今が開花期だということ、5分咲きの頃に雄蕊の花粉を取っておかないと衣服についたときが大変だとか。嬉しそうに話すその姿に、自然とこちらも笑顔になってしまう。もちろん、先輩に向ける笑顔とは種類が違うものでだけど。
「花、お好きなんですね」
 すると彼女は頬を染めて笑み崩れた。こういう笑顔を浮かべるときは、誰かが心の中心にいるときだ。
「……先日、彼がプロポーズしてくれて。そのときにカサブランカの花束を貰ったんです」
「それはそれは、おめでとうございます」
 幸せな告白に、聞いているこちらまで嬉しくなる。照れながらも、彼女はカサブランカの花言葉が“雄大な愛”だということを教えてくれた。
「森永さんも恋人にプレゼントしたら喜んでもらえると思いますよ」
 そういえば、カサブランカの凛とした佇まいは先輩を思い出させる。どこか高貴な雰囲気はもちろん、濁りのない純白の花弁は先輩の清廉さを現しているようで――
「?森永さん、顔が赤くなってません?」
「そ、そうですか?」
 危ない、にやけるところだった。
「そういえば、森永さんってヒマワリが似合いそうですよね」
「ヒマワリ、ですか」
「えぇ。ちなみにヒマワリの花言葉は――」




 玄関のドアが開く音で我に返った。
「お帰りなさい!」
 リビングに入ってきた先輩は予想通り汗だくだった。首に髪が幾筋か張り付いている。
「ただいま。あー涼しい」
 余程外は暑かったのだろう、先輩はさっさとリュックを自室に放り込み、エアコンの冷風が下りてくる真下に立って涼みだした。自分の位置からだと後ろ姿しか見えないけど、きっと涼しさにホッとした表情をしているに違いない。部屋を冷やしておいて良かった。
「先にお風呂に入ります?……ってそれ、どうしたんですか」
 エアコンで涼む先輩の手には、簡単に透明のフィルムでラッピングされたヒマワリが握られていた。根本にはサテン地の茶色いリボンが巻いてあり、どう見たってプレゼント仕様の花だ。
「大学で貰ったんですか?キレイですね」
 そういって先輩の顔(といってもこちらからは後頭部しか見えないのだが)に視線を戻すと――。
 
 髪の隙間から覗く耳が真っ赤になっているではないか。
 
 ん?と思った次の瞬間、ぐるりと振り向いた先輩の顔はトマトのように赤かった。
「え」
 あっけにとられていると先輩が大股で近づいてきて、
「ん」
 ぐいっと片手を突き出してきた。その手に握られているのは、自分に似ているといわれた夏の花。
「……貰っていいの?」
 両手で押し戴くようにして受け取ると、先輩は不自然に目を逸らしながら
「そいつ、花屋で1本だけ残ってて……店員が安くするっていうから……」
 まるで言い訳するかのような口調に、思わず頬が緩んでしまう。この人は今、どれだけ自分が可愛いかわかっていないだろう。
「んだよ!」
「いえいえ、ありがとうございます。先輩から花を貰えるなんて、嬉しいです」
 そういってニッコリ笑うと、先輩が口元を不自然に引き結んだ。再び、視線があらぬ方向を彷徨う。
「……なんか、ヒマワリってお前みたいだよなぁって思って」
「そうですか?」
「ん。無駄にでかいとことか、アホみたいな笑顔とか」
「もう、アホみたいなってどういうことですか」
 花を顔の横に近づけて、
「似てます?」
 そういって小首を傾げて微笑むと、真一文字に結ばれていた先輩の口元がとうとう解(ほど)けた。
「似てる」
 その柔らかく笑う先輩がたまらなく愛おしく思えて、引き寄せられるようにキスをした。
「……何すんだボケ」
「好きだなぁって」
 抱きしめようとしたら汗臭いから離れろと拒絶されてしまった。自分としてはどんな匂いであっても先輩は先輩なんだけど。
「ね、今度、俺から先輩にカサブランカを贈ってもいいですか?」
「カサブランカ?あぁ、白ユリか」
「はい。俺がヒマワリなら先輩はカサブランカかなぁって」
 あんなに派手じゃねーよ、と口を尖らせる様子がひたすら可愛い。もう一度キスをしようとしたが、調子に乗んなと強烈な右ストレートを貰ってしまった。
「いてててて……そういえば先輩」
「なんだ?」
「ヒマワリの花言葉って知ってます?」
 すると、先輩の顔がみるみる赤くなっていった。あ、これは知ってるな、とこちらが察するほどの動揺っぷりだ。
「し、知らん!!」
 慌てた様子でリビングを出ていこうとするので、先回りしてドアノブに手をかける。足止めをされた先輩から殺傷能力100%の眼差しを向けられるけど、こういう視線でさえも愛おしく思ってしまう自分は本当に病気なのだろう。
「どけ!」
「知らないなら教えてあげますね。ヒマワリの花言葉は、」
 視線をあわせて、



「“私はあなただけを見つめています”」



 そういってにひゃっと笑うと、先輩の眉間のシワが一層深くなった。真っ赤な顔でそんなことされても可愛いだけなのだが、それは教えてあげないことにしている。
「俺もまさにその通りですから。――先輩だけを見つめています」
 大好きです、耳元で囁くと、足の甲に踵が落とされた。
「ふ・ろ!風呂に入りたいんだよ俺は!」
「はぁい」
 あまりにもわかりやすい照れ隠しが可愛すぎてクスクス笑っていると、ドアを閉める間際に「死ね」と吐き捨てられてしまった。続けて、洗面所のドアが勢いよく閉まる音。全く可愛すぎだ。



 先輩にヒマワリの花言葉を教えたのは花屋の店員だろうか。


 それをわかった上でプレゼントしてくれたのなら――


 自分は世界一幸せな人間なのかもしれない。



 さて早速この自分の分身を背の高いグラスに生けて、リビングに飾らなくては。
 そして愛情たっぷりの夕飯とヒマワリのような笑顔で、お風呂上りの先輩を迎えてあげよう。







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