Enjoy!〜目指せ一等賞

 普段漫画は読んでもアニメはあまり見ないタチなのですが、今期はライオンに妖怪首置いてけに花丸にユーリと、チェックしているアニメがいくつかあります。今のところ見逃しはないのですが、果たして飽きっぽい自分が最後まで見続けることができるのでしょうか…まぁ見逃しがないといっても各自まだ2話目なんですけどね…(´・_・`)


 さて、今回のお話も体育祭のお話です。
 (前の演目はコチラからどうぞ)
 今回の語り手は森永君です。かなこちゃんは短距離走で一生懸命頑張ります。


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 これ以上ないというほどの晴天に恵まれれ、体育祭は順調に進んでいる。
 今行われている1年男子の短距離走が終われば、次は3年女子の短距離走だ。


「先輩先輩、かなこちゃんって何番目ぐらいに走るんですかね」
「知らん。そもそもこーゆうのって何順で走るんだっけ?名簿順?身長順?」
 手元のペットボトル(さっき黒川に買いに行かせていた)のキャップを緩めながら、宗一が疑問形で返事を寄越す。そうそう、水分補給はこまめにしておいてほしい。この天気だと結構気温があがるだろうから。
 確か自分の時は身長順で走ったような記憶がある。そこに何か意味があったのかはわからないし、特に疑問を持ったこともなかったが。

「そーいえば、最近はかけっこの順位を決めないところもあるみたいだねぇ」
 のんびりとそう磯貝が呟くと、余程驚いたのか巴が零れそうなほど目を見張った。
「え、そうなんですか?!でもどうしたって順番は決まっちゃうじゃない」
「だから最後は皆でお手々繋いでゴールするんだと」
「うそでしょ……」
 茫然とする巴を黒川が苦笑いで見つめている。まぁ、自分も最初聞いたときは同じような反応だったと思う。俄かには信じられない話だが、確かにそういう地域もあるらしい。
 果たしてそんな風に周囲が用意してくれた“平等”に慣れた子供達は、その後待ち受けている競争社会を上手に泳ぎきることができるのだろうか。

「巽君は運動会とか好きだった?」
「んー僕は運動が得意なほうじゃないけど、こういうお祭りみたいな雰囲気は好きだったなぁ」
 お弁当が楽しみだったしね!と巴が満面の笑みを浮かべれば、黒川の顔が一気に緩んで締まりがなくなる。あーあー感情がだだ漏れだよ黒川さん……おかげで隣からとんでもない殺気が発せられているではないか。
「せ、先輩はどうでしたかっ?!」
 空気を和らげるべく慌てて殺気の発信源に話を振ると、凶悪な眼差しがギロリとこちらに向けられた。
 心臓の弱い人間だったら間違いなくこれでヤられていると思う。
「あぁ?」
「う、運動会とか体育祭とかっ!楽しんでいました?!」
 どう考えたって宗一がこういう行事を楽しむ性分でないとわかっているが、この流れでは聞かざるをえないではないか!目の端にうつる磯貝がニヤニヤしているのが気に障る。元はと言えばアンタの発言が発端になっているのだから、うまく場をまとめろといってやりたい。

 すると、救いの手は意外なところから伸ばされた。

「宗君はねぇ、ほどほどにって感じだったわよねぇ」
 聖母のごとくニコニコと場を眺めていた松田から、思わぬ証言が飛び出した。
「えー何なに、どういうことです?」
「黙れ磯貝!」
「俺だって宗一君のこと知りたいもーん」
 そのおちゃらけた磯貝の返答に、本日何度目かの宗一vs.磯貝(但し戦闘モードなのは宗一の方だけ)が勃発する。つい先程かなこが観覧席にまで来て「喧嘩しちゃだめだからね!」と言っていたのに、だ。かなこがこの光景を見ていないことを心から願う。
「兄さん、そんな感じだったっけ?」
「えぇそうよ。本気を出さずに、ほどほどに流してるのがわかったわ」
「うっわ宗一君ったら可愛クナイ」
「いや、でもさすが宗一君というからしいというか……」
「そこうるせぇよ!」
 やいやい言い始めたタイミングで、次が3年女子の短距離走だと告げるアナウンスが流れた。おっ、とそれぞれがトラックに注目してくれたので一旦場が治まる。
「きっとかなこは1位だと思うなぁ」
「かなこちゃんは足が速いの?」
「うん、3人の中では一番運動神経がいいよ」
 巴が朝の宗一と同じことを言う。
「でも兄さんは本気出さないからなぁ。兄さんの運動神経は未知数」
「ほっとけ」

 トラックには紅白のハチマキをした生徒達が整列していた。結構な人数なので、どこにかなこがいるのか全くわからない。まぁスタートラインにつけばわかるだろうと、のんびりと出番を待つことにした。


「そういえばさっきの話の続きですけど、黒川さんは運動会ってどうでした?好きでした?」
「うん、好きな方だったよ。楽しかったな」
「ふふ、確かにこういうの好きそうですね。そしていっぱい活躍してそう」


『パァン!』

 一組目がスタートした。
 走者を見る限り、どうやら身長順のようだ。ということはかなこの出番は中頃だろうかと予想する。


「磯貝さんはどうでしたか?」
「俺はねぇ、まぁ宗一君と一緒かな」
「一緒にすんな」
「スマートに楽しんでたんだよ」
「何がスマートだ。可愛くねぇガキだったってことだろ」
「あ、それさっき俺が宗一君にいったことと同じじゃない?」
「ぐっ……」
「ホラ、やっぱり一緒だったってことで」
「(無視)」


 競技は着々と進んでいき、待機している生徒の列が短くなっていく。
 かなこの出番はそろそろか。


「ところで森永君はどうだったのさ」
「へ?」
「あー森永さんって運動神経良さそうだもん。きっとすっごく活躍したでしょ」
「うん、そんな感じだね」
「あ、その……」


 咄嗟に言葉が出てこなかった。


 小学校までは確かに楽しかったと思うが、自分の性的指向を自覚してからはあまり記憶に残っていない。
 周りにあわせるのにとにかく必死で、ばれないように弾かれないように、一生懸命自分を押し殺していた時期だから。


 確か「背が高いから」というだけで騎馬戦の先頭に立たされたような。
 
 確かクラス対抗でアンカーを務めたような。
 
 確かフォークダンスで組む女子全員の身長が低くて大変だったような。
 
 確かクラスが優勝したとき胴上げをされたような。





 あの頃の自分はどんな顔で笑っていたんだっけ?





「えっと、」

「おい、そろそろかなこの出番だぞ」

 隣からの声にハッとする。慌ててトラックに視線を向けると、スタートラインにつくかなこの姿が見えた。
「あ、ホントだ!かなこーーーー!頑張れーーーー!」
 立ち上がった巴が、手でメガホンを作って叫ぶ。
「届くか馬鹿」
「いいじゃん!」
 そうぼやく宗一も座っていられないのか立ち上がった。もちろん、自分も。
「あぁドキドキしてきた!」
「巽君落ち着いてっ」
「ほらこういうときは掌に人という字を三回書いてー」
「黙れ磯貝ッ」


『パァン!』


 一斉にスタートを切った。
「かなこ行けッ!!!」
 頭一つ抜け出しているのはかなこだ。スタートダッシュがうまく決まって、最初の直線でリードを作った勢いそのままにコーナーへと差し掛かった。
「わわわ、かなこちゃんダントツじゃないですかッ!」
「おー気持ちのいい走りっぷりだねぇ~」
「行けかなこ!このまま行け!」
 巴の応援が聞こえたわけではないだろうが、いや、もしかしたら聞こえたのか、かなこのスピードはさらにあがる。
 上手に重心を内側に傾けてコーナーを曲がり切り、最後の直線で2位以下を大きく引き離す。そしてそのままゴールラインを駆け抜けた。
「やったーーーーー!!!兄さん、松田さん、かなこが1位だよ!!!」
「おう」
 嬉しさのあまり巴がぴょんぴょん跳ねている。気が付けば全員が立ち上がっていて、松田も嬉しそうに顔をほころばせていた。
「あ、かなこちゃんが手を振ってるよ」
 磯貝の発言にあらためてグラウンドに目を向けると、かなこがこちらに向かって大きく手を振っている。その顔に浮かんでいるのは遠目からでもわかるほどの笑顔。応える皆の自然と笑顔になってしまう。
「やっぱり一番だったでしょ」
 興奮冷めやらぬ口調で、巴が黒川に妹自慢を始めた。
「うん、かなこちゃん足速いねぇ」
「でしょでしょ。確かリレーも出るんだったよね?」
「そうよ、クラス対抗の選手に選ばれてたはずよ」
「おーさすが」
 かなこの活躍ぶりに皆が盛り上がっている。その微笑ましい光景にこれまではすんなり加わることができたはずなのに、


(あれ、なんか調子がおかしいな)


 笑顔で加わりたいはずなのに。


 先程迂闊にも思い出してしまった暗い気持ちに引き摺られている。




 こんなとき、自分の変化に気付いてくれる人間がいてくれるのは幸せなことだと思う。
 背中をペットボトルで叩かれた。

「いてっ」

 その優しい人は、何も言わない。




「ねぇねぇ兄さん、1位ってすごいよね!」
「まぁなぁ。やるからには一等賞を狙わんとな」
「手を抜いてた人がそんなこと言っちゃって」
「うるせーよ。いいんだよ俺は、一等賞を狙う分野が違うんだよ」
「じゃあ僕もそうかな」
「いや、お前は無謀にも運動会で一等賞を狙ってただろ」
「何が無謀なのさ!」
「巽君、それは宗一君の言う通りかも……」
「いや、実はとんでもなく足が速いのかもしれないぜ……」
「もう!いいから2人とも!」
「まぁまぁおほほほ」
「とにかく!コレと決めたものは一等賞を狙え!」
「宗一君ってたまに体育会系だよね。森永君からみてそう思わない?」
「え、ああまぁ体育会系っていうか変なところで熱血漢ですよね。とりわけ研究とか」
「研究熱心といえ」
「あ、それなら僕も一緒かな。自分の分野では一等賞を狙いたいよね!」
「何の分野でもありかよ」



 そこから話は体育祭そっちのけで“どの分野でなら自分は一等賞をとれるか”をテーマに盛り上がりをみせた。
 じゃあ自分は宗一の一等賞を狙いたいなと思ったけど、我ながら意味がわからない上に変態チックなので胸の中に止めておいた。それに、そんなことを発言しようがものなら宗一に石段の上から蹴り落とされること間違いない。



 だから、まだほんの少しだけこちらを窺っている優しい人に、気持ちが届けとばかりに笑顔を向けた。



 もう大丈夫ですよ、今ちゃんと笑えてますよ。



 すると物凄く嫌そうな顔を向けられる。それと同時にホッとしてくれた様子がわかるので。






 心から、この人から一等賞をもらえるように頑張ろうと思った。







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