Enjoy!〜クールダウンはしっかりと

 先日、天気予報のお兄さんが「この先三カ月は全国的に寒くなる」と言ってました。てっきり今年は暖冬かと思っていたのですけど、個人的には寒い方が得意なのでありがたいです。それに、空気は冷たい方が景色がキレイな気がするんですよねー(*´v`)←謎発言


 さて、なんとか10月中に体育祭のお話を全話あげることができました。
 (前の演目はコチラからどうぞ)
 最後の語り手はあの方です。
 読んでくださった皆様が、少しでもほんわかした気持ちになれますように。


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 今日は可愛い姪っ子の中学最後の体育祭でした。
 妹の子供なのですが、妹が早くに鬼籍に入ったため、小さい頃から我が子のように接してきました。
あんなに小さかった姪がもう中学を卒業する歳になっただなんて……時が経つのは早いものです。
 姪には2人の兄――私からみて甥ですね――がいるのですが、上の甥っ子は同じ市内に、もう1人は海外で生活をしています。なのできょうだい3人が揃うことは年に1度ぐらいなのですが、今回は可愛い末っ子の一大イベントということで、下の甥っ子が休暇をとって帰ってきてくれました。姪の喜んだことといったらもう……!

 因みにその甥っ子は1人で帰省したわけではありません。海外で挙式を挙げた旦那さまと一緒に、です。ええ、甥っ子というぐらいですから妹の子供は男の子です。ですが、旦那さまがいます。最初に聞いた時は驚きましたが、本人たちが幸せなら周囲がとやかくいうのも野暮というものです。それに義弟、つまり甥の父親が認めてくれたのですから何も憚ることはありません。きっと妹だって、まぁ最初こそ戸惑ったでしょうが、がむしゃらに反対することはなかったと思います。結局親が気にするのはその幸せが長続きするのかどうかですもの。子供が「大丈夫!」というのなら信じるほかありませんから。
 また、甥の旦那様のお友達も、わざわざ東京から来てくれました。いかにも都会のビジネスマンといった感じの青年ですが、そのクールな見た目とは裏腹な気さくな性格に、姪がとても懐いています。彼はどうやら上の甥とも親しいみたいで、前にうちに来てくれた時は遅くまで話が盛り上がって皆寝不足になっていたものです。その時は姪が「自分も加わりたかった」と悔しがっていましたっけ。まぁどんなに姪が参加を希望しても、実の父親以上に厳格な上の甥が「ガキはとっとと寝ろ!」と一喝したでしょうけど。

 そんな上の甥は、現在同じ大学の後輩とルームシェアをしています。この同居人の男の子は森永君というのですが、この子がまたよくできたコで……。

 どこが「できた」コなのかをお話しする前に、上の甥っ子について少し補足しますね。

 現在甥は旧帝大の博士課程に籍を置いているのですが、早くからその分野で注目をされ、これからを期待する若手研究者の一人として評価をいただいているようです。しかしその一方で、研究に勤しむあまり身の回りのこと(人間関係含む)疎かにするという面がとても強く、元々の性格も災いして極端に一人を好むようになってしまったのです。それでは寂しすぎるのではと気を揉んだこともありましたが、小さい頃から弟妹の面倒を見るために自分のことを後回しにしていたコが、大人になってから自分の興味のためだけに熱中できる何かを見つけてくれたのです、そのことが嬉しくて、本人が辛くないのなら一人浮いていようがいいじゃない、と思うようになっていきました。

 ところが、です。
 
 森永君という2学年下の後輩が現れてからというもの、甥は一人でいることが少なくなったようでした。森永君がまとわりついた、という表現は些か不適切かもしれませんが、甥に言わせればきっとこのような台詞が出てくることでしょう。先程もお話ししたように、甥は身内からみても人付き合いがうまいとは言えません。本来は非常に情に厚い性格なのですが、家族以外の人間がそこに気付くには長い時間正面から向き合わうことが必要だったでしょう。森永君はそれを実践してくれました。甥にまとわりつきながらも、根気よく向き合い続けてくれました。今の彼らの関係をみていると、そういった中で積み上げてきたものは“信頼”と呼べるものになったのでしょう。そんな大切なものを甥との間に見出してくれた森永君に、伯母としては感謝の気持ちしかありません。
 また、私は研究のことは全くわかりませんが、家事に関しては一格言を持っております。森永君は研究者としても優秀らしいのですが、なんと家事の面でも相当に優秀な人物であることをここに特筆しておきます。森永君と同居を始めてからというもの、上の甥のシャツがよれていたことはもちろん、セーターに毛玉ができていたことすらありません。顔の色つやもよく、バランスのいいお料理を作ってもらっていることが窺い知れるというものです。

 お料理と言えば。

 今日のお弁当は私がおかず担当、森永君がご飯もの担当でした。彼の作ったおいなりさんとおにぎりは大変美味しく、一つ残らず皆で平らげたのですが。

「ねぇ、森永さんはお料理をお母さんから教わったの?」
 姪っ子のこの発言に、森永君と上の甥が僅かに動揺したようでした。どちらかと言えば甥の方が、でしょうか。
「いや、こっちに来てから覚えたんだよー。一人暮らしだったから必要にかられてね」
 すぐにそうこたえた森永君の顔はいつもの通り柔らかく、先程の表情は自分の見間違いだったのかもと思ったほどでした。しかしそう思うには、甥の表情が硬すぎて。
「でもお母さんもお料理上手だったんじゃない?じゃなきゃこんなに上手になれないよ」
 なおも姪っ子が続けると、森永君は自然な笑顔で
「うーん、そうだったかも」
 そう、こたえてくれました。姪っ子もそのこたえに満足したようなのでその後この話題が蒸し返されることはなかったのですが、甥の様子が少し落ち着きませんでした。
「――ちょっと煙草吸ってくる」
 校内は全面禁煙です。なので正門へと足を向ける甥の背中を、森永君がほんの少しだけ苦笑いしながら見送っていました。そして極々小さな声で
「……まったく、優しいんだから」
 と呟いたのが聞こえました。明らかに、その呟きは人に聞かせるためではなく自然と漏れてしまったものだと思ったので、その発言について尋ねることはしませんでした。なんとなく年の功で、森永君とそのご両親の問題なのだろうなと察しがつきましたし。
 でもそこで動揺するのが森永君ではなく甥だったということに、私は少し驚いてしまいました。
 驚いた、というよりびっくり……いえ、嬉しくなった、というべきでしょうか。

 家族以外に関心を持たなかったあの甥が、こんなにわかりやすく心を動かされているなんて。

 煙草から戻ってきた甥はいつもの調子に戻っていましたが、私の心は温かいままでした。





 つい10分程前までは二階から話し声が漏れ聞こえていたのですが、今はすっかり静まり返っています。
 まだ時刻は22時台なのですが、皆朝が早かった上に一日中はしゃいだので疲れが出たのでしょう。私も今夜は早く布団に入ることになりそうです。
 しかしその前に、一本電話をしなくてはなりません。うっかりしたことに、明日のお昼に使う予定の調味料が切れてしまいそうなのです。なので、上の甥に、明日こちらに来る前にお使いをお願いしようと思って。
 早速甥の携帯を呼び出すも、いつまでたっても電子音が返ってくるばかりで反応がありません。ならばと森永君に掛けなおします。正直、彼に連絡を取った方が話は伝わりやすいのです。甥に電話が繋がっても森永君に替ってもらおうと思っていましたし。
 森永君は3コール目で出てくれました。

『こんばんは、森永です』

「こんばんは森永君。ごめんね、遅い時間に」

『いえいえ!もしかして今、先輩の携帯に掛けられてました?携帯が鳴ってるなとは思っていたんですけど、先輩今お風呂に入ってて。もう少しで上がってくると思います』

 機械を通した森永君の声は、実際の声よりもほんの僅かに低く聞こえます。その耳ざわりの良い声を聞きながら、電話の要件であるお使いについて話しました。森永君は気持ちよく引き受けてくれ、そのまま今日のお弁当や明日のお昼(嬉しいことに、明日は一緒にお台所に立つ予定なのです)について喋っていたところ、

『あ、先輩が上がってきました!ちょっと待っててくださいね』

 そういったと思ったら、すぐにゴソゴソという衣擦れの音が聞こえてきました。おそらく携帯を身体に押し付けたのでしょう、微かに森永君の声が聞こえてきます。

『せんぱーい、』
『あぁ!?もうやんねーぞ!さっきので充分だろうが!』
『え?』
『とぼけんな!もう二度とやんねぇからな!なんで家帰ってきてまで何度もフォークダンスやらなきゃなんねぇんだよ!』
『えー!さっきは廊下の短い距離だけだったでしょ?今度はリビングで踊りましょうよぅ』
『だぁぼ!あれはお前が踊らねぇとビール出さないっていうから仕方なく!』
『じゃあ枝豆つけますからぁ!』
『それは踊らずとも出せ!』
『うぐっ!』

 何やらくぐもった声が聞こえたなと思ったら、急に音声がクリアになりました。携帯が押し付けられていた服から離れたようです。

『ん、通話中?……お前松田さんに電話かけてんぞ!?』
『いや、松田さんから先輩宛に電話で――』
『そういうことは早く言わんかこの馬鹿タレがぁああ!!!』

 大音声の甥の罵声と、何かが倒れる音がしました。
 
 間髪入れずに、受話器から甥の声。

『お待たせしてすみませんっ!』
「いえ、いいのよ。森永君、手当してあげなくていいの?」
『いいんですこの馬鹿はこのまま放置で!』

 そう言い放つ甥の声の向こうで、小さく「ぐえっ」と何か踏みつぶされたような声がしました。おそらく甥が森永君を足蹴にしているのでしょう。この一見過剰すぎるスキンシップも、今や見慣れた光景です。

「宗君」
『はい』
「踊ってあげなさいな」
『~~~!!』

 賭けてもいいですが、今甥の頬っぺたは真っ赤になっていると思います。
 想像するだけで頬が緩んでしまうし、気をつけなきゃ笑い声が漏れてしまいそう。

『……松田さん』
「なぁに?」
『……何笑ってるんですか』

 あらま、聞こえちゃってた?

「ねぇ、宗君」
『ハイ』
「今日は楽しかったわね」
『……ええ。かなこも喜んでたみたいですし、良かったです』

 うん、そう。姪っ子はとても嬉しそうでした。中学最後の体育祭が最高の思い出になったのは間違いないでしょう。でも、同時に私が嬉しかったのは

「宗君も、楽しかったでしょ」

 甥っ子たちも楽しんでくれたこと。
 2人の笑顔がたくさん見られて、本当に嬉しかった。

『はい』

 少しだけ笑みを含んだその声は、朝から準備でバタバタしていた私の身体に気持ち良く染み込みました。
 この子たちが喜んでくれること、楽しんでくれること、幸せでいてくれることが、今の私にとって大切なことなのです。
 同性の結婚相手であれ学校の後輩であれ、この子たちを笑顔にしてくれるのであれば喜んで受け入れましょう。

「森永君にも今日はありがとうって伝えてちょうだいね」

 返事のかわりに、再び何かが潰れるような声がしました。きっと体重をかけて森永君を踏みつぶしているのでしょう。

『……覚えていたら』
「もう、宗君ったら」

 今度は堪えきれずに声を出して笑ってしまいました。受話器の向こうの甥の雰囲気も、丸く柔らかいものになっているのがわかります。



 下の甥たちと違い、上の甥と森永君がどのような関係なのかは知りません。

 しかし、“親”にとってはその幸せが長続きするかどうかだけが重要なのです。

 未来がどうなるかなんて誰にもわかりませが、この2人なら、と思う時点で、私はこの関係を認めているのでしょう。



「宗君」
『はい』
「今幸せ?」


 明確な返事は返ってきませんでしたが、一瞬息をのんだ気配があった後に激しく気恥ずかしそうな空気が伝わってきます。


 もうそれだけで、私は充分嬉しいのです。

 そして幸せです。




 時折森永君の「きゅう」という潰れた声が聞こえましたが、私の楽しげなクスクス笑いは暫く続くことになったのでした。






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