俺と先生 2

 またまた大きな地震がありましたね。一体今年はどれだけ自然災害が起こるのでしょうか。
 昨日の地震が前震でないことを祈るばかりです。

 
 さて今日はイイニーサンの日ということですが、こちら主人公が兄さんにあらずでして……(ノ_<)
 たいした萌え要素もエロもないのに長文なのですが、中途半端にきるわけにもいかないのでこのままあげちゃいます。どうかお時間のあるときにでもご覧くださいませ。
 (前回のお話はこちらからどうぞ→1


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 巽先生は優秀である。
「この雑誌の先月号読んだ?巽先生の新しい論文が掲載されてるんだけど、あんなアプローチの仕方なんて初めて知ったわ。さすが巽先生というか。今準備してるのは海外の雑誌に投稿する分でしょ?あの先生、あんなに多忙なのに研究のクオリティが落ちないのよね。ホント尊敬しちゃうわぁ」

 巽先生は凶暴である。
「比較データを取りたいからってサンプル作りを命じられたのはいいんだけど…。巽先生ったら1日で作り上げろっていうんだよ。無理に決まってんだろって言いたいけど、言ったが最後、更にきついスケジュール組まされるんだよな。さすがに直接手を挙げることはないけど、誰かが根を上げるとロッカーが凹むわドアが破壊されるわの大惨事になるのが確実なんだよ……巽先生、マジ凶暴……」

 巽先生はロボットである。
「巽先生って一体いくつ並行してるんだっていうぐらい実験してるでしょ?普通あんな数やってたら頭がこんがりそうだけど、そういう人間らしい部分が一切ないのよ。しかも読みが外れることも滅多にないし、例えあったとしてもスグに原因を突き止めて別な角度から再アプローチして結果を出しちゃうし……あんなに無駄のない動きをされると、もしかして巽先生ってロボットなんじゃないかって思っちゃうわ」

 巽先生は魔性である。
「男の長髪なんて似合わないヤツはとことん似合わないじゃん?顔立ちはもちろん、清潔感がないと気持ち悪いだけっていうか。その点、巽先生は髪めっちゃキレイだしヘビースモーカーの割に肌キレイだし、何よりメガネとったらヤバいくらい美人度が増すんだよ。それに普段は恐ろしく目つき悪いけど、それが欠伸した後なんか涙目になってて超絶色っぽいのなんのって。あの先生に涙目で睨まれたら多分なんでも聞いてしまうわ。魔性の男ってあーいう人のこというんだと思う」


 研究室のスタッフからの証言をまとめたところによると、どうやら俺の尊敬する巽宗一という准教授は優秀で凶暴でロボットで魔性な人らしい。


***** 


「うおー多村!待ってたぞ!こっち手伝ってもらえる?」
 講義が終わって実験室に顔を出すと、さっそくD1の先輩に捕まった。
「うぃーっす」
 足早に奥にあるロッカールームに行き、ディパックを突っ込んで白衣を羽織る。学部生の頃からそうだけど、白衣を着ると背筋が伸びるような気がするから不思議だ。
 ロッカーに備え付けの鏡を覗き込み、両手で頬をパシンと叩く。
 よし、行くぞ。

「んじゃ、こっちの計測を頼むな。今までの記録はこれ」
「はい、もう始めていいですか?」
「おう、頼む」

 N大に進学して早3カ月。あっという間に時は過ぎて行ったが、その日々は充実していた。
 やはり住み慣れた土地だからだろうか、思った以上にすんなりと周囲に馴染むことができたし、研究室のスタッフは皆優秀なので毎日刺激を受ける。俺も早く一員として認めてもらいたいと社交を頑張り、積極的に実験に参加させてもらった。
 おかげさまで戦力として認識してもらえている――かな?

「多村って今日の暑気払いコンパ参加だよな?」
「あーはい、今夜はバイトないんで」
「よし。ということは女子の参加率が高いな」
 んなことないでしょ、と思わず苦笑すると、顕微鏡から顔を上げた先輩がニヤリと笑う。
「謙遜しなくていいぞー。お前が超モテるのはこの3ヵ月で嫌という程わかっている。俺ら凡人はな、そういう男に縋り付いて少しでも恩恵に預かりたいと思うんだよ」
 台詞だけ聞けばアレだけど、口調は完全に揶揄うソレだ。なのでまともに取り合わず、テキパキと手元を動かすことに専念した。あっちでもそうだったけど、俺から近寄ったことはないというのに。
「そういや今日は珍しく巽先生も参加するらしいぞ」
「え」
「巽先生と飲むのは初めてだろ。先生、新歓コンパのときは出張だったし。まぁそもそもあの先生は飲み会への参加率が低いんだよな」
 聞けば、巽先生は決して酒が嫌いというわけではなく、単に「飲み会メンドクセェ」というタイプらしい。しかし今日の暑気払いはいくつかの研究室と合同のため、各研究室の教授たちも参加する。巽先生も立場的に参加せざるを得ないのだろう。
「だけどお前ってよく巽先生に質問してるよな。俺なんでここ最近だぞ、あの人に怯えなくなったのって」
「そんなに怖い人ですっけ」
「めちゃめちゃこえーよ! “農学部のタツミ”といったらヨソの学部の学生まで震え上がる程なんだぞ」
 ふーん、と気の無い相槌を打つと、先輩は懇切丁寧になぜ巽先生が恐れられているのかを説明してくれた。でも俺からすると授業中に無駄話や居眠り、あまつさえケータイを弄る学生なんて、教室から叩き出されても仕方ないのではないかと思う。俺だってそういう奴らと机を並べたくないし。
「まぁそうなんだけどさ……お前って本当に見た目と中身のギャップが激しいよな……」
「よく言われます」
 言われ慣れているのでアッサリ返したけど、ふと俺の中で一抹の不安がよぎった。

 巽先生にまでそんなふうに思われていたら嫌だな。
 

 実はまだ、先生とあの日の話はできていない。
 研究についての質問ならいくらでもできるのに、いざその話をしようと思うと変に緊張してしまうのだ。覚えていなくて当然なんだけど、あの先生なら真顔で「は?」と聞き返しそうで少し怖い。ここまで頑張ってこられたのもあの一言があったからなのに、それまでなかったことになりそうな……自分らしくもない弱気なことまで考えてしまう。

 酒の席でなら少しはその緊張も解けるだろうか。
 今夜こそ、あの日の話をしてみよう。




 そう勢い込んで臨んだ飲み会だったのだが。




「ねー多村君、元々地元ってこっちなんでしょ?学部からN大に来ようとは思わなかったの?」
「今一人暮らしなんだよね?家どのあたり?」
「自炊ちゃんとしてる?アタシ結構お料理得意なんだけど、今度何か作ってあげよっか」
 うぅ〜誰か助けてくれ。
 そう思って周りを見渡しても、どの顔も生温かい視線を送るばかりで間に入ってくれそうにない。昼に手伝いをしたD1の先輩に至っては焼き鳥片手に思いっきりニヤニヤしていやがる。「ほれ見たことか」という声まで聞こえたような気がした。
 俺は今、周囲をM2のお姉様方に囲まれている。さっきまではD2のお姉様もいらっしゃったのだけど、教授に呼ばれて離れていった。去り際に舌打ちが聞こえたような気がしたけど、あれは多分俺の聞き間違いではないと思う。
「ちょっとぉ、聞いてる?」
 一人のお姉様がしな垂れかかってきた。いくら来るもの拒まずな俺でも、こういう場では勘弁してほしい。しかも相手は先輩なので無下に跳ね除けるわけにもいかず、俺は自分の顔が引き攣っているのを自覚していた。

 そうやって次々に繰り出される質問と攻撃(?)を適当に流しながらも、俺の視線は上座の教授陣をチェックすることを怠らない。
 今巽先生の隣に座っているのは隣の研究室の先生だ。手にビール瓶を持っているところからすると挨拶回りの途中だろうからすぐに離れると思ったのに、これがなかなか席を立たない。巽先生の表情からするに話が弾んでいるわけでもなさそうだ。あまり飲み会に参加しないと言われていたし、きっと珍しがられて捕まっているのだろう。

 あ、漸く移動してくれた。

「先輩方すみません、そろそろ俺、先生のところに行くんで」
 そういって立ち上がると、一斉にお姉様方からブーイングの声があがる。
「えぇー!?もうちょっといいじゃない、話そうよぉ」
「多村君、結局何も教えてくれなかったし!離さないよ!」
 ギュッと脚に絡みついてきた先輩を蹴り上げるわけにもいかず、なんとか穏便に離してもらえるよう必死に頭を働かす。
「じゃあ、一緒に行きます?」
「うーん、先生次第かなぁ?楽しく飲める先生ならついてくー。どの先生のところに行くの?」
「巽先生」
 おぉ、すんなりと離してくれた。それどころか全員がピシリと姿勢を正した。
「「「いってらっしゃい」」」
「いってきます」
 どれだけ恐れられているんだよ巽先生。



 途中ビール瓶を一本調達して、運良くまだ空席だった巽先生の隣に滑り込めた。
「先生、お疲れ様です」
「おう、お疲れ」
 大学人は若く見られがちだけど、もちろん巽先生も例外ではない。今のように白衣を脱いでいるとフツーに院生にしか見えない。こうして外で先生をみると本当に8年という歳月を経たのか不思議に思えてくる。
「確かお前、外から来たんだったよな。もうこっちに慣れたか?」
「はい、先輩方が良くしてくださるので。毎日勉強させてもらってます」
 いい具合に先生のグラスが空いていたので、持参したビールでお酌をする。先生がアルコールに強いのかどうかはわからないけれど、今のところまだ酔いは回っていないようだ。
「勉強させてもらってるというよりこき使われてるんじゃないのか」
「んなことないです、ちゃんと自分の実験も進めてますし」
 そーか、と返してくる言葉はそっけないが、こういう気遣いをしてくれるところが“先生”なんだなと思う。一見他人に興味なさそうに見えるのに。確かに昼間先輩が言っていたように厳しい面もあるけど、今思えば巽先生は幼い頃に初めて出会ったときから俺の中で“先生”だった。
 よし、今日こそあの日の話をするぞ。
「そういやお前、どこ大出身だっけ」
 そう尋ねられて、ふとQ大の恩師から聞いた話を思い出した。
「Q大です。そういえば先生、先生ってN大のご出身ですよね。10年ぐらい前って院生ですか?」
「あ?そうだな、10年前ってとM2か。それがどうした?」
「いえ、大体10年前ぐらい前らしいんですが――」
 そう前置きして、俺は恩師から聞いた“幻のN大生”の話をした。もしかしたら当時噂になって巽先生も耳にしたことがあるかもしれない。
「へぇ、そんな奴がいたのか。お前の所属していた研究室ってことはココと分野が近いわけだろ?10年前、ねぇ……」
「大体なので9年とか8年とか7年前かもしれませんけど」
 巽先生は口元に手をあて、暫し考え込むような仕草をした。「M2のときは……いや、特に誰も……つーか誰がいたっけ……D1は……」とブツブツ呟いていたが、

 変化は突然やってきた。


「!!!」


「え、先生どうしたんですか!?」
 突然先生はビクリと震え、その強張った横顔は青褪めたと思ったら一気に赤くなった。それはもう、見事なほどに。
「先生っ!?」
 慌ててその顔を覗き込むと、先生は熟したトマトのような顔色のまま思いっきり眉間にシワを刻んでいる。まるで何かに対して怒っているような。
「せせせせ先生……」
 オロオロしている俺には一切視線を向けず(というか向けられていたら震えあがっていたかもしれない)、先生は一気にグラスの中身を煽った。そのままグラスを勢いよくテーブルに叩きつけたので小気味良い音がしたけど、周囲も大概騒がしいので誰もその音を聞き咎めなかった。
「先生……」
 今度は恐る恐るその顔を覗き込むと、先ほどまでの表情とは少し違う……いや、眉間のシワは相変わらずなので怒った顔には違いないのだけど、なんというか――口元が思いっきりへの字になっていて、恐れ多くも可愛いと形容してしまいたい表情なのだ。
 何この顔、普段とギャップがありすぎなんですけど……?!

「……昔すぎて覚えてねぇ」

 いやいやいやいや、絶対覚えてるよね!?
 そう突っ込みたいけど、俺と先生の関係じゃそんなこと出来るはずもなく。俺に出来ることは口を噤んでグラスをビールで満たすことだけだった。
 そっと横顔を盗み見ると、頬の赤味は若干落ち着いたものの耳がまだ赤い。なんだか貴重なものを見てしまった。こんなに動揺するなんて、この話は今後巽先生の前でしないほうがいいようだ。
「あ、えと、もう一つ10年ぐらい前、具体的には8年前のお話になるんですけどッ」
 タイミング的にどうかと思うけど、さっさとこの話から離れたかったので俺はあの話を切り出すことにした。
「俺、実は先生にお会いしたことがあるんですよ」
 今度は何の話かと、先生の目には若干警戒の色が浮かんでいる。その警戒を解いてもらうために、俺は席を移動するときに持ってきた自分のディパックを漁る。そして目的のものをつかみ出し、先生の前に掲げた。
「あの、これ!」
 いつか先生に話しかけたいと思って研究室のロッカーに入れていた、あの日温室に置きっ放しだった本。今漸く先生に見せることができた。
「中学の体育祭のとき、温室で」
 もっと他に言い方があるだろうと頭の隅で思うけど、もう焦りすぎて口が回らない。学会で見かけたときから、どういう風にあの日の話を切り出そうかと考えていたのに。
 両手で本を握りしめ、そろりと先生の顔を伺う。
 先生はその切れ長な目をぱちくりとさせていた。
「……」
 おっとこれは覚えてないパターンか。
 内心ガッカリしたけど仕方ない、だってもう8年も前の出来事だ。俺にとっては衝撃的な出会いだったけど、先生にしたらほんの一瞬の出来事だっただろうから。
 取り敢えずこの行動の説明をするべく口を開こうとした瞬間、
 
 先生の目が大きく見開かれた。


「おまっ……!もしかしてあのときのチビ!?!?」


 ……!!!思い出してくれた!!!


「今はもうチビじゃないですけどあのときのチビです!!」
「本当かよ!え、お前ずっとわかってたんか?なんですぐに言わないんだよ!」
 背中をばしんと叩かれる。チョー痛い。でもそれ以上に嬉しくて。
「だって絶対覚えてないと思ったんですもん!」
 滅多にお目にかかれない鬼の巽准教の上機嫌っぷりに周囲が驚いている。うわ、スマホを構える学生までいるじゃないか。もしも実験室で先生がこんな感じだったら、ついに最強の毒物でも精製したのかと思われてしまうだろう。
 その後も先生は機嫌よくグラスを傾け、俺はあの日の出会いがいかに自分の人生に影響があったかを熱く語った。途中、「お前、見た目と中身のギャップが凄いな」といわれたけど、先生の普段と今のギャップには敵わない。
 そしてなんと、先生は俺の名前を覚えていなかった。元来人の名前を覚えるのが苦手らしく、俺のことは「院から入ってきた茶髪メガネ」として認識していたそうだ。ちなみに、8年前はゼッケンを確認しようとするもタイミングを逃したらしい。
「俺、背が高いからその辺り覚えやすくなかったですか?」
 そう問うと、
「……背の高さはあまり感じなかった」
 と返され、少し驚いた。確かに先生も平均以上の身長だとは思うけど、研究室で俺より高い学生はいないから覚えやすいと思うのに。もしかして先生は俺より背が高い人を見慣れているのだろうか。
 





 開始から3時間ぐらいを過ぎたところで会がお開きになり、希望者はそのまま二次会に行くそうだ。
 俺も誘われたけど、今夜はもう胸が一杯なのでお断りをさせていただいた。お姉様方には悪いけど、今日はさっさと家に帰って感慨に耽りたかったのだ。
 どうやら巽先生も一次会で帰るらしく、さっさと輪から離れていく。もう少し話したかったので先生方に挨拶をし、後ろ姿を追っかけた。後を追ってきた俺に先生は驚いたようだったけど、睨まれなかったことを幸いにそのまま隣をキープする。
「お前、二次会は」
「いやー、いいです今日は」
「女子が残念がるぞ」
「……俺から近付いたりはしてませんからね」
 げっ。まさか先生まで俺のことをチャラ男と認識しているのだろうか。尊敬している人にそう思われるのは避けたい。
 どうやら家の方向が一緒らしいので、そのままブラブラと一緒に歩く。
 校内で見かけるときから思っていたけど、先生は歩くのが早い。背筋を伸ばして真っ直ぐ歩く。
 その迷いなく歩く姿は、見ていてとても気持ちがいい。
「先生の家ってどの辺なんですか?」
「教えねぇよ」
「先生って一人暮らし……いや、いつもシャツにアイロンかかってるしお弁当持参の日もありますよね……ご実家ですか?それとも彼女と同棲中とか」
「なんでお前にそんなこと言わなきゃならねぇんだよ!つーかシャツとか弁当とかどこまで見てんだ!」
「だって話しかけたくてタイミング見計らっていたんですよ!」
 鬼と呼ばれる巽先生に何て口聞いてんだと思ったけど、酒の勢いもあって口調を改めなくてもいいと判断した。だって、だって、ずっと話しかけたかったのだから。
「で、家どこですか」
「ぜってぇ、教えねぇ」
 俺だって、本当に教えてもらえるとは思っていない。ただ、こんな気軽に先生と話せるのが夢のように嬉しいのだ。俺と同様、先生もアルコールのおかげでだいぶ砕けた口調になっているし。いつもこんな感じなら話しやすいのに。
 一向に進展のない言い合いをしていると、道の先にコンビニが見えてきた。同時に今日中に振込を済ませておきたいものがあったことを思い出す。
「あ、俺コンビニ寄らなきゃ」
「そうか、じゃあな」
「先生も寄りません?」
「用事もないのに寄るか馬鹿!」
 そんなことを話しているうちに、あっという間にコンビニに着いた。
 ここでもうお別れかと少し残念に思った時、店内から背の高いスーツ姿の男性が出てきた。

「あ」

 その男性がこっちを見てそう言った……と思ったけど、俺の隣からも同じようなセリフが聞こえた。
 え?
「今帰りですか?」
「ん。お前もか」
「はい」
 当然のようにこちらに近付いてくる男性は、おそらく俺よりも背が高い。ピシっと決まったスーツの上に乗っかっている顔は――うっわ何このイケメン……。
「学生さん?」
「おう、俺んとこの学生」
 親しげに先生と話すその男性はおそらく先生と同じぐらいの年齢だと思う。でも敬語を使っているから先生よりは年下なのだろう。
「ほれお前、コンビニに用事があるんだろ。さっさと行け」
 あらためて先生が俺に視線を戻し、言葉とともにシッシッと手を払う。もう、犬じゃないんだから。イケメンも苦笑しているじゃないですか。
「あ、ハイ。じゃあ失礼します」
 その場で二人と別れ、先ほど男性が出てきた自動ドアに向かって歩き出した。ふと店内に入る直前に振り向くと、二人が先の角を曲がる姿が目に入る。きっと仲のいい相手なのだろう、普段真っ直ぐな先生の肩の線が心なしか緩んで見える気がする。


 そこでなぜか感じる既視感。


 あれ?
 俺、あの二人が並んでいる姿を見るのは初めてじゃないかも。


 いやいや、こっちに帰ってきたのはたった3ヵ月前だし、その間にあんな長身イケメンをみたら記憶に残っているだろう。そもそも俺は学校以外で巽先生を見かけたことはない。

 気のせいかなぁ。記憶力には人一倍自信があるんだけど。
 
 しかしその優秀な記憶力が、気のせいじゃないと囁いてくる。




 暫くその場で考えたけど、答えなんて見つかるはずもなく。
 今度先生に聞いてみるかと心に折り合いをつけ、支払いをするべくレジに向かった。







   →3
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