俺と先生と彼

 うわーいよいよ今週末はクリスマスですよ!
 そして来週は年末ですよ!……ってマジですか((((;゚Д゚)))))))
 毎年のことなのですが、この時期の時間の早さについていけていません……。ホント、普段より1.5倍速になってるんじゃないかと思ってます。


 以下、前回の記事に鍵付きでコメントを下さった方へのお返事になります。

  12月14日午前にコメントを下さったお客様
 いえいえ全然失態なんかじゃないですよー!!私個人の意見としては先を予想されると楽しいものですし、それが頭にある内容通りだと「あ、発想が似てるのかも」と嬉しくなっちゃいます。まぁそこをいかに(いい意味で)裏切っていけるかが腕の見せ所なのでしょうけど…どこに売ってるんですかね、そういうの((´・ω・`;))うちの黒森永君ったら、なかなかブラック化が持続しないんですよね。なので最後までブラック化はしないと思いますよ!だからいつかご希望に添えられるものを…書けたらいいなぁ〜〜〜(願望)

  12月14日午後にコメントを下さったお客様
 ありがとうございます〜。流れ星、一瞬の輝きがキレイでした\(^o^)/やっぱり兄さんってば甘いですよね。さてそれは兄気質ゆえなのか対森永君だからなのか…おそらく本人もわかっていないことでしょうwホント、年末って何かと気忙しいですよねぇ…ご存知でした?今年ってあと二週間らしいですよ(゚д゚)お互い体調を整えていきましょう!



 さて、今回のお話も連作モノの番外編になりますが、これにて番外編終了となります。
 なんか盛り込みたい内容が多すぎて、随分まとまりのないお話になりました。分けるべきかとも思ったのですが、本編ならまだしも番外編を分けるのも…と、そのまま載せております。時間潰しにでもどうぞ!


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 12月も半ばをすぎると10℃を下回る日が続く。
 実家のある九州よりも冷え込みは厳しいけど、元々名古屋育ちの自分としてはどこか懐かしい寒さでもある。それに研究室の中は暖房が効いているので十分暖かい。まだ午前中なこともあり、この暖かさには少し眠気を誘われる。
「悪いな多村。休日まで俺の雑用を手伝わせて」
 全然悪びれていない口調でモニターの陰から巽先生が声をかけてきた。
「いえ、今日は経過観察だけでしたし。バイトもカテキョだけなんでお気になさらず」
「何時からだ」
「19時からです」
 なので18時には上がらせてもらいたい旨を伝えると、「そこまでかからんだろうから大丈夫だろ」と返された。確かに今日の手伝いは資料の整理なので、実験ほど時間の読めない作業ではない。自分の頑張り次第で時間の調節は可能だとは思うけど……。

 なんだこの量は。

 目の前のローテーブルには堆く重ねられた書類の束とパンパンに膨らんだ紙ファイルが数冊。研究関係の資料はパイプ式のファイルでキチンと保管しているので、これらの紙ファイルは全て教務関係のものになる。
 先生にとって重要度が低いその紙ファイルは、碌に分類もされていないのだろう、許容量を遥かに超える枚数を収めている。俺だって整理整頓が得意とは言えないが、さすがにこれはヒドい。なんで親展って右上に押印された書類とオープンキャンパスの案内を続けて綴じてんの。
「……先生、これ親展の書類が混ざってますけど」
「だろうな。学部の成績表とか入試問題も入ってるけど、まぁテキトーにやってくれ」
 いやいやいやダメでしょ!
 しかし俺がダメ出ししたところで先生の考えが変わるはずないので、とにかく作業に取り掛かることにした。先生が教務の仕事を面倒臭がっているのは知っていたけど、いくらなんでもこの状況は雑すぎる。
 こうなると先生の私生活はどーなってるんだと思うけど、いつも小ざっぱりとした服を着ているし不健康そうな気配は全くない。長い髪もきちんと手入れがされていて、実は羨んでいる女子学生もいるらしい。

(……あの人が先生のお世話してるのかな)

 先日、予想外の対面を果たした森永さんのことを思い出す。
 ものすごくイケメンだったけど、ものすごくおっかなかった。
 とてもじゃないけど、ピンクの桜田麩のハートや“ゴメンナサイ”の海苔文字弁当を作る人には見えない。寧ろ作られる側、尽くされる側の人間のように思えたのだけど。

(チャンスがあったらまた会ってみたいなぁ……)


 その機会は、思っていた以上に早く訪れることとなる。







「バイトがなくなった?」
「はい。今生徒のお母さんから電話があって。なんか身内に不幸があったらしく」
 先生がタバコ休憩の間に掛かってきた電話はバイト先の生徒宅からだった。実入りのいいバイトが休みになるのは少し勿体ないけど、その分先生の手伝いと自分の研究の時間に充てることにしよう。
「なので夜までお手伝いできますよ。明日も休みだし――って先生?」
 先生は俺の言葉を聞いていないのか、少し口元に手を当てて考え込んでいる。そして徐にジーンズの尻ポケットから携帯を取り出し、どこかに電話を掛け始めた。


「おう、今いいか?……お前今どこいるんだ……は、松田さんち?そんなこと今朝言ってなかったじゃねーか……おう、よろしく伝えててくれ。じゃあ、まだ買い物いってないよな?あんな、今晩多村をウチに連れてくるから。飯ヨロシク……あぁ?今決めたんだよ……いーだろたまには。じゃ、任せたぞ」


 え。


 盗み聞きするつもりは誓ってなかったけど、さすがに目の前で電話をかけられたら否が応でも耳に入ってきてしまうではないか。今、俺をどこに連れて行くって言ってたの?
「あ、あの、先生?」
「というわけで、晩飯食いに来い。今夜空いてるんだろ」
 え、え、と狼狽える俺を一瞥もせず、先生はさっさと自分のデスクにで作業を始めてしまった。
「えっと」
「お前、前にあいつの作った飯食ってみたいって言ってたよな」
 あいつっていうのは森永さんのことで良いんだよね?言いました、言いました、森永さんの料理が食べてみたいって言いました。
「いいんですか?」
「無理にとは言わないが」
 いやいやいやここは無理をしてでもいくべきでしょう!
 実は同期連中から遅くなってもいいからとコンパに誘われていたが、もとより客寄せパンダとわかってて行く気はなかったし、年末年始のイベントを前にがっついている友人たちを見るのも忍びなかった。それに自分が登場することで無駄に恨まれたくなかったし。
「お邪魔します」
「よし。んじゃ夕方までに終わらせるぞ」




 



 先生のアパートは大学にほど近い閑静な住宅街の中にあった。
 目に見える範囲にあるのは全て家族向けの建物で、学生向けのアパートはまず見当たらない。
「わー、キレイですね」
 まだ時刻は18時を過ぎたところだけど、周囲は完全に夜の色で空には星がいくつか見えている。その中に佇む建物は結構立派な鉄筋造りで、まだ新しそうな物件だった。
「そうか?俺が院生の頃から住んでるから結構な築年数だと思うぞ」
 何気なく先生がそう言ったけど、つまりそれは学生の頃から森永さんと同居しているということか。まだ建物の外観しか見ていないが、おそらく学生一人が住む部屋の広さではないはずだ。
 だとしたら、いくら先生がいいと言っているとはいえ、俺の来訪を森永さんはどう思っているのだろう。俺が二人の空間に立ち入ることを本当に良しとしてくれているのだろうか。
 先生がディパックから鍵を取り出す段階になって、俺は漸くその考えに至った。
 ただでさえ良い印象を持たれていないだろう相手だ、これは慎重になった方がいいのでは。

 今まさにドアノブに手をかけた先生を止めようと、慌てて声をかける。

「あ、あの、せんせ――」

“ガチャッ”

 俺の言葉は無常にも鉄の扉が開かれる音に遮られた。


「ただいま」
「お帰りなさい!」


 その一言を待っていたかのように、誰かが奥から飛び出してくる。俺は先生の真後ろに立っているのでその姿が見えない。
「早かったですね」
「今日は実験じゃなかったからな」
 目の前の肩の線がほんの少しだけ緩められた。声のトーンも普段とは違う気がする。
 多分今、先生の中でモードが切り替わったのだろう。
 そんなことを考えていたら、さっさと中に入れと促された。緊張しながらもドアをくぐり、ゆっくりと視線を上げると、
 
 上がり框には穏やかな笑みを浮かべたイケメンが立っていた。


「お、お邪魔します……」
「いらっしゃい」


 もちろんそこにいたのは、先日大変気まずい別れ方をした森永さんその人だった。今日は前髪こそあげていないものの、さりげなく毛先を遊ばせた髪型はその甘い顔立ちによく似合っている。スーツ姿も抜群だったけど、今日みたいに着心地の良さそうなVネックセーターに程よくダメージの入ったジーンズ(絶対高いヤツ)といったオフモードの姿もファッション雑誌から抜け出てきたかのように決まっているではないか。超定番のアイテムをここまでカッコよく着こなすなんて、どんだけ素材がいいんだよ……!
 先日の“デキるイケメンビジネスマン”と“オフモードのイケメン”のレベルの高さに慄いていると、隣の先生がものスゴイ顔をしているのに気が付いた。

 例えるならば、誤って腐った生物を丸のみしたような顔と言えばいいのか。

 要するに、スゴい顔。

「せん、せい……?」 
 すると先生はとんでもない行動に出た。とっととスニーカーを脱いで室内に上がると、自分より高い位置にある森永さんの頭をひっつかんで揉みくちゃにしだしたのだ!
「っぎゃー!!何するんですか!!」
「るせぇ!なんだこの頭は、朝は寝癖だらけだったじゃねぇか!何をカッコつけてやがんだっ!」
「ぐっ……!そりゃ俺だって髪ぐらいセットしますよぅ!」
「うわ、手がベタベタすんじゃねーか。気持ち悪ぃ!」
 躊躇うことなく先生の手が森永さんのセーターにかかる。
「どこで拭いてんですかあんたはーーー!!」
「げ、毛だらけになった」
「そりゃそう、ってインナーで拭かないでぇえええ!!」
 先生は(おそらく)ワックスまみれになった手を森永さんがセーターの下に着ていたインナーで拭くという暴挙に出、ショック?のあまりに崩れ落ちた森永さんを足蹴にするという鬼畜の所業を見せている。
(何だこの通り魔的なプレイは……)
 度肝を抜かれて呆然としていると、凶悪な顔のままの先生がこちらに視線を向けた。こわいこわいこわい。
「お前何をそんなところに突っ立ってるんだ。早く上がれ」
 いくら先生と近しくさせてもらっているからといっても、この地を這うような声に慣れることはない。先生ったら家に帰ってきてリラックスしたんじゃなかったの。
 慌てて靴を揃えて振り返ると既に先生の姿はなく、髪をぐちゃぐちゃにされた森永さんが立ち上がるところだった。
 森永さんは端正な顔をくしゃりと崩し、照れ笑いを浮かべながら俺と向き合う。
「驚かせてごめんね……改めまして。森永哲博です」
「あ、いえ……俺は多村愼太郎といいます。今日はお邪魔します。あと、これ」
 ぺこりと頭を下げたのち、手にしていたビニール袋を差し出す。中身は途中コンビニで買ってきた冬季限定のビールが数本。先生もお金を出そうとしてくれたけど、お土産なのでと辞退させてもらった。
「わ、ありがとう!後であけよう――ところで多村君、」
「はい?」
「この前はごめんね。俺、盛大に勘違いしてたみたいで……本当に、すみませんでした」
 そういって森永さんが頭を下げてきたので、慌てに慌てた。
「いや!あれは俺も悪かったですしっ!こちらこそ失礼な態度をとって大っ変失礼しました!」

 暫く2人でペコペコと謝罪合戦を繰り広げていたものの、奥から聞こえた「早く飯にすんぞ!」という一言によって引き分けとなったのだった。




「うわ、これ全部森永さんが……?」
「いや、ポテトサラダは先輩の叔母さんのお手製だよ」
 つまりそれ以外は全部森永さんが作ったということか。
 奥の部屋はリビングになっていて、既にテーブルの上には夕餉が整っていた。並んでいるのは大皿に盛られた豚の角煮と紅白なます、漬物が数種類。キッチンから戻ってきた森永さんがポテトサラダの隣に置いたのは白菜のスープだろうか。
 この甘・辛・酸っぱいが揃った完璧な食卓は一体なんだ。そりゃ弁当からして料理上手なんだろうなとは思っていたけれど、何この完璧な主婦レベル。まさかこの漬物まで森永さんの手作りなんじゃ……。
「寒いし鍋でもいいかなと思ったんだけど、豚バラのブロックがお買い得だったんで」
 いやいや鍋なんて一人でもできるんだから角煮チョイスで大正解ですとも!
 一人暮らしの学生なんて肉に飢えていて当たり前、当然俺も例外ではない。いただきますと手を合わせ、速攻で絶妙な色艶の肉にかぶりつく。
「……!んまいですっ……!」
 コレは美味い!なんて表現したらいいのかわからないけど、とにかく美味い!結構大きな固まり肉なのに箸でも切れる柔らかさに加え、脂身にもしっかり味が染みていてプルップルの口当たり。一緒に盛られた煮卵は、え、まさかのトロトロ半熟だと……!?
「そう?なら良かった。味付け濃すぎない?俺、地元が九州だからつい甘めの味付けになっちゃうんだけど」
「いえ、全っ然大丈夫ですっ!俺も今は九州に実家があるんで、甘めの味付けにも慣れてます!」
 あっ、そうだったね、と森永さんがニコリと微笑む。きっと先生から俺の話を聞いていたのだろうけど、俺は森永さんが九州出身だなんて初めて知った。九州のどこなんだろう。
 俺が乏しい語彙力を駆使しながら精一杯の賛辞を森永さんに送り続けている中、照れたように笑う森永さんの隣で先生は黙々と箸を使っていた。でも黙っているからといって決して不機嫌ではないと思う。だってこんなに美味しい料理を前にして不機嫌になるはずもないし、何より口角が普段よりも確実に上がっているから。
「お、このポテトサラダ、結構黒胡椒が効いてるな」
「お酒にも合うようにしたって松田さんが言ってましたからね」
「つーか松田さんが連絡する頻度、間違いなく俺よりお前の方が多いよな」
「それは先輩がケータイを携帯していないからでしょう」
「つまらんこというな」
「ダジャレじゃないから!」 
「ごふっ!!!」
「どーした多村」
「大丈夫!?なんかすごい音したけど!」

 なんだこの夫婦漫才は。



 その後も先生と森永さんの面白い会話をちょいちょいと挟みながら、和やかに食事は進んでいった。その間中、先生の雰囲気が柔らかかったことは特筆すべきことだと思う。その明らかに学校とは違う先生の様子に、改めて尋ねなくとも先生にとって森永さんの存在がどれほど大きいのかがわかるというものだ。

 こんなプライベートな空間に入れてもいいと思ってくれているほど、先生は自分を信用してくれているらしい。

 ありがたくって目眩がする。




 夕飯の後は、手土産で持ってきたビールと森永さんが会社(なんと森永さんの勤務先は大手製薬会社だった)の飲み会でもらってきたワインをあけた。
 ここでも先生はリラックスムードが続いているのか、飲むペースが普段より早い。何度か飲む姿は見ていたけど、こんなにペースが早いのは初めてだ。あっという間に手元の缶を空け、森永さんに新しい缶を要求している。
 俺の考えていることがわかったのか、森永さんが苦笑混じりに零す。
「いつもの巽先生のペースじゃないって感じでしょ」
「え、あ、はい……先生、いつもゆっくりと飲んでるイメージなんで」
「先輩、お酒は好きだけど酔うのが早いんだよね。だから教える側になってから飲み会ではセーブしてるみたい」
「あぁナルホド……」
 確かに飲み会における巽先生は酔っ払った学生の後始末(泥酔してトイレから出て来ない学生を引っ張り出す→店外に放り投げる、解散後も寝こける学生を店外に連れ出す→路上に放置)をしている印象が強い。
 一方で森永さんはザルなのか、結構な量を飲んでいるにもかかわらず顔色が全く変わらない。俺も強い方だけど、森永さんには勝てないかも。
「森永、開けろ」
「はいはい」
 森永さんがプルタブを起こして手渡すと、先生は嬉しそうに缶を口元に持っていく。え、なにその顔。不意打ちで見せられた無防備な笑顔に、思わず目が吸い寄せられる。もともとキレイな顔立ちであることはわかっていたけど、アルコールでほんのり赤くなった目元や普段より緩んでいる目尻が妙に印象に残るではないか。
「うわーあんな顔初めて見た」
 思わずポツリと呟くと
「……あーいう顔、普段学校で見せてないよね……?」
 あ、これいつかの夜の再現じゃね?
 急激に身に纏う空気を変えた森永さんが、低い声でそう呟く。
「大丈夫です、見せてません」
「そう……坂本先生が言ってたんだよね、先輩ってコアな学生ファンが付いてそうって」
 はいはい軍服を着た先生に蹴られたいっていう人たちね。確かにいるけど何で坂本先生が知ってるんだ。それはあれか、巽先生と同様に変人と誉れ高い坂本先生だからこその見解か。またそれが当たってるのがなんとも言えない。
 ブラック化しそうな森永さんを宥めようとアワアワしていると、状況を全く把握していない当事者がトロンとした目を向けてきた。
「森永、お前そんなセーター持ってたっけ」
「あぁ、これ下ろし立てです。今日初めて着ました」
「脱げ」
「え」
 何ですと。
「着心地良さそうだから、ちょっと貸してみろ」
 一瞬時が止まったのは森永さんも一緒だったようで、一拍のち慌ててセーターから袖を抜き始めた。その間に先生も羽織っていたカーディガンを脱ぎ、手渡されたセーターをぽすんと被り――
「あ、でけぇ」
「――――――!!!」
 その衝撃的な光景を目の当たりにし、森永さんは片手で顔面を抑えながらスゴい勢いで後ろを向き、俺は思わず身を乗り出した。
 森永さんサイズのセーターはもちろん先生には大きめで、全体的にぶかっとしている。でもそのサイズ感が男性としては華奢な先生の体躯をより際立たせていて、極め付けの萌え袖仕様があまりにもあざと可愛い。それに加えて先生が萌え袖のままその手首を鼻先に持って行き
「……なんかいい匂いすんな」
 と緩く微笑んだものだからタチが悪い。瞬間、自分の顔に熱が上ったのがわかる。繰り返しになるけど、巽先生はキレイな顔立ちをしている。そんな人が酔っているとはいえゆるゆるの笑顔を見せてきたのだから、男女問わず赤面してしまうのは仕方ないだろ!
 一人俺が赤面していると、隣から穏やかに声がかけられた。
 その声音は、どこか甘い。
「先輩、それ脱ぎましょうか」
「嫌だ、寄越せ」
「先輩には大きすぎますよ。それに先輩に黒は似合わない。今度俺が同じ店で柔らかい色合いのセーター買ってきますから」
「……これがいい」
「先輩お願い。俺、寒くて風邪引いちゃう」
 そう森永さんが言うと、渋々といった感じで先生がセーターを脱いで寄越した。すぐさま森永さんが先生にカーディガンを着せかける。
「ありがと、先輩」
「ん」
 うわ、なんかスマートだな森永さん。
 カーディガンを着直した先生はそのままリビングを出て行く。トイレかなと見送っていると、
 
 突然視界が激しく前後した。

「多村君!今見た先輩の記憶を頭から消去して!」
「いやいや無理無理無理!そんな機能は俺についてませんっ!」
 もうわかってる。森永さんがどれだけ先生のことを大事にしているかわかってる。
 先日の一件はもちろん、弁当でも今日の短い時間でもよくわかりました。
 だからといってここまで独占欲が強いのは如何なものか!
 目が本気すぎるから!
「大丈夫です他言しません、信用してくださいっ!」
 こんな衝撃的な巽先生の様子を話したところで間違いなく誰も信じない。
 あの鬼の巽准教が酔ってゆるゆるな笑顔を見せただなんて、地球滅亡の前触れとしか思われないのがオチだ。
 先生と付き合いの長い森永さんのことだ、それぐらい予想がつくだろうに。
 なんとか揺さぶりをといてもらうと、ついでに今後学校で先生に何かあったら即連絡することを約束させられた。どんだけ心配性なんだと思うけど、魔性の男と呼ばわれていることを思えば強ち取り越し苦労とも言えないわけで……。
 
 お互いの携帯を取り出して番号を交換していると先生が戻ってきた。
 俺たちの手に携帯があるのを見て、再びゆるゆるの笑顔になる。
「お、お前ら仲良くなれたんだなー。そうだぞ、喧嘩はいかんぞ」
 とゴキゲンに宣ったのをみて、今更ながら先生が森永さんと俺の関係を気にしていたことに気付かされた。

 なんだ先生らしくもない。

 でもその心遣いが嬉しくないはずがない。

「はい、仲良くなれました……よね?」
 後半は俺に向かってのセリフだろう、森永さんがこちらを向いて首を傾げてきた。
 少し不安気なのは、先ほどの無体を反省しているからだと信じたい。
「あ、はい、多分」



「これからも末長く宜しくね」










 その後、俺は博士以降も巽先生に師事し続け、森永さんとの付き合いもずっと続くことになる。
 いつの間にか下の名前で呼ばれるようになり、サシ飲みをする仲になる頃にはすっかり愚痴聞き&相談役に定着していた。おかげで喧嘩した2人の間に立ったことも数知れず。まぁその分俺も仕事や恋愛のことで森永さんに頼ることになるのだけれど、それはまた別な話。
 



 とりあえず、いつまで経ってももあの2人は変わらない、ということだけは明言しておこう。
 









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