甘くて幸せな顔とは

 今日は3月10日、「砂糖の日」だそうです。
 そこで短いお話を一つ、急拵えですが書いてみました。
 といいますのも、先日の暴君連載再開の予告にあった不穏な言葉をみて、こりゃあ森永君を甘やかしてあげなきゃなぁと思った次第でして……(ノ_<)まだどんなストーリーになるのかもわからないのですがwww


 というわけで、今回のお話は”甘い”お話です。
 本当はがっつりえろがあったのですが、ない方がスッキリするかなぁと判断してバッサリ切りました。
 やはりえろは難しいです。精進します。

 また、今日で三日連続の更新になります。不定期の更新にも拘らず多くの方にご訪問をいただき、ありがたいやら申し訳ないやら……。ご訪問、本当にありがとうございます。
 稀にこういう無茶な更新をやらかしますが、こういう時は「あ、blueが荒ぶってる」と思ってやってください。
 基本的に、何かが忙しくなると筆が進むタイプです。


 ではでは、宜しくお願いいたします。







 教授の研究室を辞するとき、「コレ、頂き物なんだけど苦手じゃなかったら貰ってよ」と恭しく紙袋に入った何かを受け取った。
 中を覗くと自分よりも同居人が喜びそうな物が入っていたので、そのまま礼を言って持ち帰ったのだけど。


「ん~~~あっまーーーーい!!!」

 
 ここまで大喜びされるとは思わなかった。
 貰ってきた手前2,3粒は口にしたものの、自分的にはもうそれだけで充分に満足だった。教授から甘いよとは言われていたが、こんなに糖度が高い(しかもデカい)とは想定外だ。昔はこんなに甘くなかったと思うがなぁ、と心の中で独り言つ。
「先輩、もういいんですか?」
 森永がもう何個目かもわからないソレ――苺を指先で摘みながら、ことりと首を傾げてきた。余程苺が嬉しいのかそれとも単に風呂上りだからなのか、その頬はほんのり赤い。
「あぁ、俺はもういい。後はお前が食え」
 そう言って自分の器を押しやると、ヤツはへにゃりと相好を崩した。いそいそと器を引き寄せる仕草がなんとも子供っぽい。
「お前、本当に甘いモノが好きだよな……」
 思わず呆れ口調でそう言うと、
「先輩だって果物の甘さなら平気じゃないですか。この苺、甘さと大きさで超有名なんですよー。口に合いませんでした?」
「俺はちょっとの量で満足するんだよ。お前はあれか、無駄にデカいからエネルギーの消費量が半端ないんだろうな。だから過剰な程糖分を欲するんだろ」
 無駄にデカいって酷いです~、と哀れっぽく言ってくるものの、その顔は嬉しそうにニコニコしている。さっきちゃんと夕飯を平らげたくせに、よくもまぁそんなにバクバク食えるもんだ。これはもしかして甘いモノは別腹というヤツなのだろうか。そこそこ付き合いは長いと思うが、コイツの胃袋事情まではさすがにわからない。


 興味を引かれないTVを眺めるのも飽きてきたので、隣で苺を頬張る同居人を観察することにした。


 森永は俗にいうイケメンと呼ばれる種類の男らしい。どこか幼い印象を与える顔立ちな上に大抵柔らかい笑みを浮かべているものだから、初対面の相手からは余程のことがないかぎり好印象を持たれる。そういえば先日、助手たちが「一見童顔なのに実験中に見せる真剣な顔は卑怯」「イケメンはどんな顔してもイケメンなんだからいっその事鼻水垂らして歩いてほしい」「森永さんの笑顔は春を呼ぶ」「そして周辺の男どもが春を奪われる」だの、散々な批評をしていたっけ。言葉はあれだが、一応褒めていたんだと思う。
 まぁ笑顔云々はわからんでもない。本人に話したことはないし話すつもりもないが、森永の笑顔は割と気に入っている。たまに見られるナサケナイ笑顔のときは容赦なくぶっ飛ばすけれど、通常時の笑顔に度々癒されていることは悔しいながらも自覚している。だから、今ニコニコして苺を頬張る顔も悪くないのだが――。



 ……。


 ………。

 
 …………。



「……あ、あの、先輩……?」
「ん」
「俺の顔に何かついてます……?」
「……目と鼻と口がついてるな。あと眉毛」
 そうじゃなくて、と森永は器用に眉を八の字に下げてきた。
「何でそんなに俺の顔を見てるんですか。緊張するでしょう」
「いやー、ちょっとな」

 そう、森永の顔を見ながらふと疑問が浮かんだのだ。

「お前さぁ、甘いモノを食うときって幸せそうな顔するよな?」
「そりゃそうですよ、俺甘いモノ好きですし。甘党の人は皆そんな感じじゃないですか?」
「苺、好きだよな?」
「はい。だから俺、今幸せそうな顔してるでしょ?」

 そういって森永がニコリと微笑むけど、そうだけどソレジャナイ感があるのだ。どういえば伝わるのか分からず、ソファーの背面に体重を預けて腕を組む。

「何か違うというか……お前、甘いモノ食うとき以外にそういう顔するときないか?」
「そういう顔って?」
「なんていうかこう、幸せでたまらないって感じのデロデロな顔だよ」
「……え」
「何食ってるときだっけ?考えるんだけど思い出せないんだよな」
「…………」
「くそ、全くわかんね。もっと甘いモノ食ってる時だっけ」
「…………」
「それとも酒飲んでるときか……いや、酒ではないな……」
「…………」
「こらてめぇ聞いてんのか」
 黙り込む森永を不審に思い、その顔を覗き込むと――

 


 森永の顔は真っ赤っ赤だった。




 まるで苺のように。




 想定外の反応に目を瞬かせていると、

「せんぱい……それって煽ってるわけじゃないですよね」
「は?何を?ていうかお前顔赤いぞ」

 その時森永の顔色ばかりに目がいって、少し掠れた声に気付かなかった自分を心底馬鹿だと思う。

「――ね、先輩」
「なんだよ」
「美味しく苺を食べるコツって知ってます?」
 そう言うと森永は器に残っていた苺を一粒取り上げた。よく熟していて、さながら赤い宝石のような一粒だ。その宝石をおもむろに口元に運び、まだ色付きが浅いヘタ側の果肉を齧る。
「苺って先端の方が甘いんですって。だからまず、ヘタの方を口に入れてから残りの部分を食べるといいみたい」


 はい、あーんして。


 緩やかに尖った先端部分を唇に押し付けられた。普通に食わせんかと怒鳴ろうと口を開いた瞬間、押し込まれる。
 ぐっ、甘い。
「ね、甘いでしょう」
 仕方なく頷くと、とろりと森永が微笑んだ。
 粘度の高いその微笑みは明らかに苺を食べていたときの笑みとは別な種類のもので。
 その段になって漸く、自分がやらかしたことを自覚する。

 ヤバい、いつ俺はコイツのスイッチを入れてしまったのだ。

 慌てて身を引こうとしたが、そこは森永の方が一枚上手だった。あっという間に肩を掴まれゼロ距離まで顔を寄せられる。
「俺にも食べさせて」
 そう囁くのと唇が重なるのはほぼ同時だったように思う。すぐさま唇の合わせ目にぬるりと舌を這わせられ、身体がゾクリと波打った。思わず緩んだ唇の隙間が見逃されるはずがなく、その厚く熱い舌が口内に侵入を果たす。まだ中には咀嚼中の赤い果肉が残っているというのに、だ。必死に森永の肩を押し返してもピクリともしない。きっとそれっぽっちの行動は抵抗のうちに入らないのだろう、侵入者は器用に口内を動き回る。上顎の弱い部分を丁寧に舐られたときは、思わず鼻にかかった声がもれてしまう。嫌だもう何なんだ。こっちはもう盛大に恥ずかしくて憤死するんじゃないかと思っているのに、なんで更に勢いづいてくるんだよ。こうなると苺の味どころじゃない。耳に届く水音が酷く淫らで、唇だけじゃなく耳まで侵されている気になってくる。


 舐められ、吸われ、齧られて。


 漸く解放されたときは、唇がぷっくりと腫れているのが鏡がなくともわかった。卓上の苺並みに色付いているのではないだろうか。
「ん、甘かった」
 そんな苛立つ感想に殺意を込めて目の前の馬鹿を睨むと――そこにあった表情は決して自分が望んでいたデロデロの甘い顔ではなかった。前髪をかき上げながら唾液で濡れた唇を舐めるその姿は、ギラギラした目元と相まってまんま捕食者だ。さっきまで人畜無害な顔でニコニコしていた男と同一人物だと思えない。違う、こんな顔を見たいわけではないのに。

 だから思わず、


「そ、そういう顔じゃない!」
「へ?」


 堪えきれずにそう叫ぶと、目の前の捕食者は一瞬だけ素に戻った。変わらずに瞳には情欲の色がともっているけれど。




「俺の言った幸せでデロxデロな顔っていうのは、そ、そういう顔じゃねぇんだよ!」




 さっきのキスの余韻で潤む目元のままそう言い放つ。
 ただ嬉しそうで幸せな顔が見たかっただけなのに、なんでこんなことになる。
 こんな顔が近くにあったら変にぞわぞわして全然落ち着かないではないか。



 と、なぜか森永が片手を目元に当てて頭上を見上げた。暫くそのまま動かない。
 何だとうとう壊れたか。今のうちに逃げ出すべきかと腰を浮かせたところ、
「……わかりました。俺の全力のデロッデロな顔、ご覧に入れてみせましょう」
 漸く落ちてきた声はゾッとするほど甘く、そして柔らかい。
 恐る恐る見上げると、一見まさに蕩けるような笑顔と表現してもいいような顔がそこにあったけど、その目は完全に雄そのものだ。瞬時にその男臭い色香に射すくめられる。


 やばい、喰われる。


 身の危険を感じたのと勢いよく立ち上がった森永に腕を掴まれたのはほぼ同時だった。
「え、あ、おい、ちょっと待て!」
「待たない」
 先輩が悪いんですよ、と身に覚えのない誹りを受け、意味がわからん!と暴れても無駄にデカい森永はびくりともしない。
 ただ、その横顔はデロデロで幸せそうに蕩けていて。
 ああそうそう、この顔だと思う反面、連行先が森永の部屋でなければもっと堪能できるのにと心底悔やんだ。
 連れ込まれたらそうもいかないことは経験則でわかっているから。





 ちゃんとこの顔を見ててくださいね、と耳元で囁く声は、胸焼けがしそうな程に甘かった。


 







スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる