兄さんと一緒! 3

 個人的には今日がGW二日目なのですが、世間一般では既にGW後半、Uターンラッッシュが始まっているそうで。
 ちょっとだけ、世間の波に乗り遅れている感があります|ω・`)


 さてさて、今回のお話も前回のお話の続きになります。これにてお出かけ話は一旦完結となります。連休中に書き上げられて良かった\(^o^)/!季節ネタは大変ですが、やはりやりがいがあります。完全な自己満足デス(´ω`人)


 ではでは、よろしくお願いいたします。







 翌日も好天に恵まれ、街をそぞろ歩きするには少々暑いぐらいの陽気となった。
 昨日羽織っていたGジャンは腰に巻くことにして、トップスはボーダーのカットソーだけにしておく。多分この陽気だとエアコンをつけているお店もあるだろうから、すぐに脱ぎ着できるようにしておかなければ。
 ベージュのキャスケットの角度を窓ガラスで確認していると、
「かなこちゃん、そのキャスケットとても似合ってるね」
 くるりと振り向くと、森永さんがニコニコしてこちらを見ていた。その隣にいる兄さんはまだ寝足りないのか欠伸をしている。そんなに大きく口を開けて、虫でも飛び込んできたらどうするの。
「うん、買ったばかりだけどお気に入りなの」
 そうなんだ、と柔らかく相槌を打ってくれる森永さんと違い、兄さんは更に大欠伸を重ねている。今朝は早起きをして朝風呂を楽しんできたみたいだけど、それで逆に疲れてしまったらしい。
 それにしても兄さんったら朝風呂に行くなら起こしてくれたらよかったのに。
 朝目を覚ますと既に兄さんの姿はなく、広縁で朝茶を啜っていた森永さんが「朝風呂に行くという書き置きがあった」と教えてくれた。きっと森永さんは自分も朝風呂に入りたかっただろうに、おそらく自分を一人部屋に残すわけにはいかないということで留まってくれたにちがいない。寝坊助でごめんなさい、森永さん。でも、二人でゆっくり朝茶を楽しむのも嬉しかったな。






 今日はお昼過ぎまでこの温泉の町を散策し、割と早い時間から帰途に着く予定となっている。というのも、連休中なので道路が混んでいるという予想と、婦人会のおばさま方のほとんどがお家で家族が待っている身なので夕方までには自宅に着きたい、という事情があるらしい。
「かなちゃん、どこか行ってみたいお店はある?」
 バスの中で配られた観光マップと睨めっこしていると、松田さんがそう聞いてきてくれた。昨夜は松田さんも楽しかったらしく、今日は少し寝不足気味なんだとか。
「えっとねぇ、いくつかあるけど……この甘酒のソフトクリームは絶対食べてみたい」
「まぁ、それは気になるわね」
 と女性陣がご当地スイーツで盛り上がっているのに、

「先輩、欠伸が多すぎません?」
「……ねみぃ」
「ほら、ちゃんと前みて歩いて。ぶつかっちゃいますよ」
「あ〜……」
「ちょっ、そっちにいったら電柱にぶつかっちゃいますって!」
「う〜……」

 兄さん、おじいちゃんみたい。
「宗君、バスに残らせてもらう?」
 あまりのダメダメっぷりに、松田さんが心配そうに声をかける。
「いや、コーヒーでも飲めれば大丈夫ですから。おら森永、さっさと案内しろ」
 森永さんのお尻を膝で蹴り上げる様子はいつもの兄さんなのだけど、こんな調子で歩いていて大丈夫だろうか。連休中なので、昨日の高原同様なかなかの人混みなのに。
 今立っている場所は温泉街の入り口といったところで、道路の両脇にはお土産屋さんや昔ながらの構えのお店が並んでいる。おばさま方はショッピングとなるとスイッチが入るようで、今日は森永さんに構うことなく街を散策しに行かれた。なので今日は最初から四人で回ることができそうだ。
 人出はすごいけど、せっかくの旅行なんだもから目一杯楽しまなきゃ!





 そう、勢い込んでいたのだけれど。






「あらぁそこのお兄ちゃんったらいい男!ちょっとうちの店のお漬物試食していきなさいよ」
「はい、いらっしゃい。お兄さんかっこいいからオマケしちゃおうかな。こっちのおせんべいも食べてごらん」
「ちょっとまってお兄さん、特別に今蒸かしたてのを持ってくるから……はい、ご試食どうぞ。火傷に気をつけてね」

 いやはや、世の中のおばさま方はこうも若くてカッコいい男性には優しいものなのだろうか。昨日の松田さんたちではないけれど、乙女心というのはいつまでたってもなくならないもののようだ。いく先々のお店で売り子のおばさま方に捕まっている森永さんをみていると、本当にそう思う。
 因みに今森永さんが捕まっているのは、温泉街の定番・温泉まんじゅうの試食コーナー。自分が試食させてもらったのは冷たいお饅頭だったけど、森永さんには蒸かしたてをサービスしてくれるらしい。もちろん冷たいのも美味しかったけど、熱々のお饅頭はもっと美味しいだろう。うーん、羨ましい。
「ねぇ兄さん、森永さんっていつもあんな感じなの?」
 我関せずとばかりに店内をうろうろしていた兄さんを捕まえて尋ねると、兄さんは短く「知らん」とこたえた。缶コーヒーを飲んで少しは目が覚めたみたいだけれど、あまりお買い物には興味がないらしい。既にこの店にも飽きてしまったらしく、足先が店の外に向かっている。なんてわかりやすい。
「あんな感じじゃ森永さんが落ち着いてお店をみて回れないよね。サングラスとかマスクとか、どこかに売ってないかな」
 割と本気で考えたのに、兄さんからは白い目を向けられてしまった。変装としては定番のチョイスだと思うのだけど。
「……まぁ、昨日今日といつも以上にだらしねぇ顔はしているよな」
「えっ?」
 聞こえてきた呟きに反応して見上げると、兄さんは大して興味もなさそうにまた欠伸をしている。
「どういうこと?」
「本人に聞いてみろ」
 それだけ言うと、兄さんはさっさと店から出て行った。こんなに人が多いのだからフラフラしてほしくないけれど、多分そのあたりにいてくれるだろう。
 漸く売り子のおばさまから森永さんが解放されたのが目に入ったので、別な売り子さんに捕まらないうちに捕獲する。
「森永さん、すごい人気だね」
 すると森永さんは途端に眉尻を下げ、少々情けない(でもイケメン)表情を浮かべた。
「うーん、何でなんだろうね」
 そう話すということは、本人にもこの事態の原因がわかっていないようだ。
 お会計の行列に並ぶ松田さんを確認してから、さっき兄さんから言われたことを森永さんに伝えてみる。
「兄さんがね、昨日も今日も森永さんがいつも以上に……えっと、だらしない顔をしてるっていってた」
 本人を前にして“だらしない顔”というのは大層気が引けたけど、他にうまい表現が見当たらなかったのでそのままお伝えしてみた。
「え、俺、そんな顔してる?」
 思わずといったふうに両手で頬を押さえる姿は、こんなに背が高くてカッコいいにも関わらず、どこか幼く見えて可愛らしい。多分この仕草は俗に言う“ただしイケメンに限る”ってやつだと思う。
「いや、でも兄さんの主観だから。んー、だらしないっていうより、楽しそうだなとは思うかな」
 これは本当に思っていたことだったので、すんなりと言葉が出た。
 昨日の高原はもちろん、お宿の夕食中や卓球対決、一緒にTVを見ていたときやおやすみの挨拶をしたときも、森永さんは常に笑顔だった。もとより笑顔の多い人だけど、いつも以上にキラキラしていいうか。

 いや、これは楽しそう、というより、


「幸せそう、かな」


 ポロリとでた呟きに、森永さんがその大きな目をぱちくりとさせた。
「あ、いや、なんかごめんね?!偉そうなこといっちゃった!」
「そんなことないよ!大丈夫!大丈夫だから!」
 慌てて前言を撤回すると、森永さんの方が慌ててそれを肯定してきた。
「かなこちゃんのいう通りだから!大丈夫!」
 店先で騒いでしまったので、ちょっとだけ注目を浴びているような気がする。松田さん、まだお会計終わらないかな。
「――うん、かなこちゃんのいう通りなんだよ」
 その声がやけにしみじみとしたものに聞こえたので、今度はこっちが目をぱちくりとする。



「俺、今幸せ」



 そう言って微笑む
顔は、確かに”だらしない”といってもいいほど緩みきっていて。

 そうか、兄さんのいう“だらしない顔”というのは、森永さんが“幸せを実感しているときの顔”なのか。

 こんな顔を見られるのだから、兄さんも森永さんの隣を離れたくないはないだろう。





 その後も、色んなお店を覗いたり、森永さんが売り子のおばさま(たまにおじさまも)に捕まったり、テイクアウトのフルーツジュースで休憩したりと、通りを満喫した。
 途中、お店が一緒になった婦人会のおばさまが「宗一君の後輩はとてもいい子ね」と盛んに森永さんのことを褒めたものだから、それを聞かされた兄さんがビミョーにはにかむという珍事が起きた。そのとき森永さんも松田さんも離れたところにいたので、その珍しい兄さんの様子を目撃したのは自分だけだった。なので、多分二人に話しても信じてもらえないと思う。自分ですら信じられないのだから。
 でもそのときの兄さんが少しだけ自慢気に見えたのは、決して見間違いなんかじゃなかったと思う。







「あった!兄さん、ここだよ!」
 探していたそのお店は、表の通りから一歩中に入ったところにあった。
 観光マップに載っているぐらいだから元より有名なお店なのだろう、場所の割に大勢のお客さんで賑わっている。
「かなこ、あまざけソフトクリーム食べるー!」
「はいはいわかったからはしゃぐな」
 兄さんもこの酒屋さんはチェックしていたようで、店内に入ってじっくり棚を眺め始めた。お目当てのソフトクリームはというと、店先で販売しているようだ。
「ソフトクリーム食べてていい?」
「おー。どこかわかるところにいてくれ」
 どこか上の空で返事をされたけど、こっちが兄さんを見失わなければ大丈夫だろう。
「森永さんも食べるよね?」
「もちろん!」
 満面の笑みでこたえてくれた森永さんは、辛党の兄さんと違って甘いのが大好きな人だ。性格だけではなく味覚も正反対な兄さんの胃袋を掴んでいるなんて、森永さんってやっぱりすごい。本当、いつかお料理を教わらなければ。
 そうして店先でソフトクリームを舐めつつ兄さんの買い物が終わるのを待っていると、何やら店内の隅っこの方で言い合いをしている人たちが目に止まった。
「何だろ」
「ケンカじゃないっぽいけど」
 森永さんも気付いたようで、その顔は少し真剣なものになっていた。同じように松田さんも眉を潜めている。
「宗君大丈夫かしら」
 見れば一人はエプロンをしていることから店員さんと推測できるけど、こちらに背を向けている人がどういう人なのかがわからない。おそらくお客さんなんだろうけど、
「あ、」
 その人がキョロキョロ辺りを見渡したので、その人がどういう人でどんなトラブルが起きているのかが何となく察せられた。
「外国人のお客さんなんだ」
「多分言葉がわからないんだろうな。ちょっと行ってきます」
 そう言って森永さんが店内に向かおうとしたとき、店員さんの影から誰かが姿を見せた。
「あっ」
 思わず森永さんが足を止めたのも無理はない。その場に現れたのは兄さんだった。兄さんなら英語がわかるし、話せる。なんせカナダで数ヶ月生活していたぐらいだ。そして店内に向かおうとした森永さんもおそらく英語ができるのだろう。兄さんも森永さんも優秀だということをたまに忘れそうになる。
 何を話しているかはわからないけれど、兄さんは店員さんと外国人のお客さんの間に立って何事か話しているみたいだ。
「宗君が通訳をしているのね」
 松田さんが感心したように呟く。きっと松田さんも兄さんと森永さんが優秀だということをたまに忘れているにちがいない。
 どうやら話がまとまったようで、店員さんが陳列棚から一本の酒瓶を取り出して外国人のお客さんに見せている。そして兄さんが二言、三言喋って、売買が成立したらしい。奥に店員さんが消えると、外国人のお客さんが兄さんと握手して何か話をしている。

 すると、隣からちょっとだけ冷んやりとした空気が漂ってきた。

 ソフトクリームから発せられる冷気にしては、その幅が広い。そもそも、三人ともとっくに食べ終わっている。
 冷気が発せられる方向にいる人は確認しないでもわかる。
 そちらを見るのも何となく憚られて兄さんたちを見つめていると、なんとその外国人のお客さんが兄さんの手の甲を自分の口元に持って行き、

「っ、はぁ?!」

 真横で旋風が起こったと思ったら、次の瞬間には店内では兄さんを背中にかばう森永さんの姿があった。早口で何事か目の前の外国人のお客さんに喋っている。何事か相手が言い返そうとしても、それすらも遮る勢いで喋って――いや、捲し立てている。なぜか森永さんの髪の毛が逆立っているように見えるけど、さすがにあれは幻覚だろう。うん、多分。
 そんな森永さんの勢いに気圧されたのか、外国人のお客さんは両手を挙げて後ずさり、店の奥へと消えていった。それを見届けるや否や、森永さんが兄さんの手を引きずるようにしてこちらに戻ってくる。

「離せ馬鹿野郎っ!俺はまだ買い物してねぇんだよ!」
「ダメです!今いったらあの変態がいるでしょ!絶対ダメ!」
「あんだけお前が脅せば何もしてこねぇだろ!つうかお前ああいう物言いは国際問題レベルだぞ!言葉を選べ馬鹿が!」
「いいんですよあれぐらい言ってやったって!あいつ絶対最初から先輩のこと狙ってましたからね?!だから危機感持ってっていつも言ってるじゃないですか!世の中にはいろんな変質者が」
「お前が一番身近な変質者じゃボケェ!!」
「うぐっ!!」


 右ストレートに沈んだ森永さんを足蹴にしている兄さん姿は、さながら漫画に出てくる悪魔のよう。我が身内ながら本当に鬼だと思う。確か昨日も同じような光景を見た気がするけどもう見慣れた光景になっているのが恐ろしい。
「あ、兄さん、お店の人がこっち見てるよ」
 視線を感じて辺りを見渡せば、何か話したそうな店員さんがこちらを見ている。大の大人が男性を足蹴にしている光景を見れば、そりゃあ近付きたくもないだろう。
 どうやら店員さんは先ほどのお礼(やはり言葉がわからなくて困っていたそうだ)を言いたかったらしく、感謝の気持ちということで地元の名酒を格安で売ってくれたらしい。たまには人助けをするもんだなぁと兄さんはご機嫌だったけど、森永さんはちょっとだけ不満そうだった。
 そんな二人を見て、松田さんは「宗君は大切にされているわねぇ」とコロコロと笑っていた。






 あっという間に集合時間となり、温泉の町に別れを告げて貸切バスに乗り込んだ。
 「帰りは先輩の隣に座ったら?」と森永さんが言ってくれたので、ありがたく兄さんの隣に座らせてもらう。
「森永さんじゃないけどいい?」
「寧ろ松田さんは隣があのデカブツでいいのか」
 通路を挟んだ反対側では、森永さんと松田さんは楽しそうに小声で話し込んでいる。時折松田さんの笑い声も混じるので、楽しくお喋りをしているのだろう。
 最初の方こそ、バスの中は小さな声がいたるところ漣のように聞こえていたけれど、それも次第に小さくなってくる。やがてどこからか寝息が聞こえる様になった頃、さすがに自分の瞼も重くなってきた。
「お前、眠いんだろ」
 会話が途切れがちになったことで気付いたのか、兄さんがそう言ってくる。
 自分こそ、あんなに眠たがっていたのに。
「まだまだ先は長いんだからとっとと寝ろ」
 そうはいうけれど、座ったまま首を前に倒して寝ると起きた時が大変なのだ。でも指摘されたとおり眠いのは事実だし、どういう態勢で寝ようかしら。
 すると、兄さんの手が頭に回ってきた。そして、ぐいと引き寄せられる。
「ほら、肩貸してやるから」
 思わず目をぱちくりと――今回の旅行で目をぱちくりとさせたのは何回目だろう――させて斜め上を見上げると、兄さんは窓枠に頬杖をついて外を見ていた。
「兄さん、こっちの肩が痛くなるよ?」
「構わねぇよ」
 え、これは甘えていいのかな?
 そんなことを考えていたのがわかったのか、兄さんが視線だけこちらに寄越す。

「そんぐらい、甘えろ」

 ホラ、と再度頭を引き寄せられ、兄さんに凭れかかる。
 鼻先を擽るのは柔らかい兄さんのにおい。大好きな兄さんのにおいだ。
 嬉しくて額をぐりぐりすると頭上から「アホか」という声が聞こえたけど、どう聞いたってその声音は優しいから。


「おやすみ、兄さん」
「おう、おやすみ」


 瞼を閉じると一気に眠気が押し寄せてきた。
 柔らかいにおいを夢の中に持って行くべく、深呼吸をしてから意識を手放す。
 そうすればホラ、どんな夢を見ても兄さんが助けてくれるはずだから。


「なぁにニヤついて寝てんだか」
 夢見心地で聞こえた声は、どこか嬉しそうな響きを含んでいたと思う。
 
 








 たくさん甘えて、甘やかされて。
 自分と同じぐらい、兄さんも楽しかったって思ってくれているといいな。
 またどこか一緒に行こうね。













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